タフでかっこいい、成熟を体現する3人の女たち
撮影・黒川ひろみ 文・日高むつみ
ただの一冊とて外れなし!と断言できる、田辺聖子さん。
昭和3年生まれ。生家の焼失により女学校を諦め、金物問屋に勤めながら文学修業し、35歳で芥川賞を受賞。軽妙な大阪弁にのせて男女の機微や女性の生き方を綴り“お聖さん”と親しまれた。
「“女の子の味方をする”と決めて、昭和の女の人生を書き続けてきた。作品には田辺さんの人生がそのまま詰まっています。“日常って、そんなにたやすいもんやない。それでも腐らんと生きていきましょ”という見事な生き方。人生の辛酸をなめてシビアな現実を知り尽くした人だからこその甘さがあり、読みやすいけれども読後感はしみじみ滋味深い。きっと心に届くものがあると思います」
人生における跳躍力が半端じゃない、ヤマザキマリさん。
「この母にしてこの子あり。ヤマザキさんは強烈な鋼のよう。尋常じゃないサバイバル力がある」
14歳でヨーロッパに単身旅行して17歳からイタリアで画家修業。シングルマザーになって……という波瀾万丈な人生も、彼女にとっては苦労じゃない。なぜなら母も音楽家になるため家を飛びだし、ヴィオラ奏者として女手ひとつで娘2人を育て上げたから。
「世に言う“いい母親”ではないけれど、自分を信じて何を恨むでもなく生きていく姿勢を教えてくれている。つらさやしんどさを軽々超えるジャンプ力は母譲り。壁に当たっても、上を向いたら違う景色も見えてくると教えてくれます」
私の知らない景色を見せてくれた、田中美津さん。
1970年「便所からの解放」という一枚のビラを書いて日本にウーマンリブの火を灯した田中美津さん。その生き方を俯瞰する一冊が今年5月に刊行された。タイトルは幼い頃に受けた性的暴力を乗り越えて生き延びるための諦念。
「“どん底の底はない。生きてさえいれば、いつかは笑える”“どんな人の人生も幸福だけではないし不幸だけではない”という言葉に救われます。理不尽な事柄に憤り、自身の考えを主張して、他者を思い、矛盾だらけの自分を愛おしむ。美津さんの生き方に、こんな成熟の仕方もあるのだとぐっときました。いかに成熟していくかは老いの醍醐味ですから」
島﨑今日子(しまざき・きょうこ)さん●ジャーナリスト。ジェンダーをテーマに幅広い分野で執筆活動を行う。『安井かずみがいた時代』(集英社)など、著書多数。
『クロワッサン』1003号より
広告