手を動かすことを、こよなく愛する人。それが平澤まりこさんだ。なぜ?と尋ねると、「(作った)人が見えるものが好きだから」という。服でも、器でも、アートでも。
「まっすぐな線より、フリーハンドのほうが面白い。ぎこちない線だったとしても、むしろ味わい。かけた時間、プロセスそのものが、作っている人の“言葉”だと私は思っているんです」
京都、パリ、イタリア……暮らすように旅をしてまとめた平澤さんのイラストエッセイも、偶然出会った人やモノとの交流で、何げない一日が特別な一日に変わることを教えてくれる。
「帰国後に、記憶で絵を描き直すこともあるけれど、そのときにさらさらっと描いた絵のほうが断然いい場合もあって。それは、その瞬間のパッションだったり、感動だったり、気持ちや心のほうが技術より大事だからなんです」
昨年、ラトビアやフィンランドの田園を旅したこともあり、作家・小川糸さんとコラボした『ミ・ト・ン』を出版。女性の手仕事とその一生を描いた、大人の童話。エッチングの繊細な線がとても印象的で、ずっと眺めていたくなる。
「エッチングはこの作品で始めた技法。味わい深いのですが、道具がないとできない。それが、厚紙で版画が作れるんです。ワークショップをすると、大人も子どもも夢中になって手を動かしていますよ」
そう言って紙の感触を確かめる平澤さんの手は、とてもきれいだった。