糖尿病になりたくなければ、いますぐ歯周病を治そう。
撮影・森山祐子 イラストレーション・川野郁代 ヘア&メイク・遠藤芹菜(坂本さん) 文・越川典子、青山貴子、高橋顕子
歯周病菌と免疫軍団の闘いが、慢性炎症を引き起こしています。
糖尿病専門医の立場から
一体なぜ、糖尿病専門医が「口の中」のことを話すの?と、不思議に思うかもしれませんね。
実は、僕自身が、立派な歯周病持ちの糖尿病予備軍だったんです。それが口腔ケアを始めたら、1年で口はすっきり、身体もすっきり、血糖値や血圧は下がり、不整脈さえ治っていた。
歯周病が全身性の疾患に悪影響を与えていたことを身体で理解した、糖尿病専門医としての第2の出発点だったわけです。以来、毎週末、全国を飛び回って、この話をしています。
歯周病とは、悪玉の歯周病菌と身体を守る免疫軍団の闘いです。赤く腫れた歯茎の裏側では、実は、痛みを伴わない静かな戦争(炎症)が起きているんです。歯茎や歯を支える顎の骨が壊され、破れた血管からは出血します。それがずっと続いているから、炎症はいっこうに治まらず、“慢性炎症”になってしまっているのです。
その結果、どうなると思いますか。体内では、糖尿病だけではなく、動脈硬化による狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、誤嚥性肺炎、骨粗鬆症や関節炎などに関係していることがわかってきたんです(下図参照)。
今や糖尿病予備軍は2000万人。30代以上の80%が歯周病。大問題です。歯周病と全身疾患との関係に、一刻も早く、一人でも多くの人に気づいてもらうことが必要なのです。
矯正歯科専門医の立場から
むし歯はともかく、歯周病の怖いのは、自覚がないところなんです。歯茎から血が出た、腫れたというときには、重症になっています。歯周ポケットの深さが3㎜までは正常範囲。4mm以上になると歯周病と診断されます。でも、3mmでも炎症は炎症。そもそも、自分の歯周ポケットの深さを知っている人がどのくらいいるでしょうか。
身体のどこかから出血していたら、病院へ行き、治療しますね。でも、口の中には皆さん、驚くほど無頓着です。28本の歯すべてに5mmの歯周ポケットがある人の歯周ポケット総面積は72㎠。手のひら1つ分の炎症が起きています。
しかも、プラーク(歯垢)1mgに10億の細菌が存在し、その中の歯周病菌は空気を嫌う嫌気性細菌。歯周ポケットの奥で増え、ジワジワと炎症を広げていきます。
40代、50代の大人の矯正も増えてきました。歯並びや噛み合わせが悪いと、見た目だけでなく、しっかり噛めない、歯が磨きにくい、むし歯や歯周病にもなりやすいからです。歯周病が原因で歯がぐらついたり、歯列から飛び出すことも。大人の矯正はとくに、歯周病検査を行い、歯周病治療をしっかりする医師を選ばないと、悪化してしまう危険があるんです。
よいかかりつけ歯科医を見つけること。それが、口腔内だけではなく、全身の健康を守るための確実で早い方法だということを知ってほしいです。