あなたの健康寿命は大丈夫?
指輪っかテストで簡単チェック!
自立した老後を送るために重要な「脚の筋肉」。今のあなたは大丈夫? まずは簡単な「指輪っかテスト」で脚の筋力をチェックしてみましょう。
数年前に比べて体力の衰えを実感しているという料理研究家の門倉多仁亜さん。老年学の専門家・鈴木隆雄さんに健康寿命とは何か、40〜50代の女性が近い将来に向けて持つべき心がけとはいかなるものか聞きました。
門倉多仁亜さん(以下、門倉) 最初に、そもそも健康寿命とはどんなものかということをお聞きしたいのですが。
鈴木隆雄さん(以下、鈴木) 健康寿命とはその人の寿命のうち、健康でいられる期間のことです。健康というのは単に「病気がない」ことではなく、血圧が高い、膝が痛い、耳が悪いなどいろいろ不調はあっても自立して自分の生活を切り盛りできるという意味です。
門倉 その逆は、ほぼ寝たきりということですか?
鈴木 そうですね。「不健康寿命」です。この期間が長いと毎日の生活に支障をきたしてしまいます。そこで最近、健康寿命が注目されるようになったのです。
門倉 いま、日本人の健康寿命ってどれくらいなんでしょう。
鈴木 平均寿命は女性の場合、世界第1位、男性も世界第3位です。健康寿命も世界でトップクラス。ただ、不健康である期間も長くて男性は平均9年、女性は平均12年間もあるんです。
門倉 それは長い!
歩くスピードが
命のバロメーターになる?
鈴木 簡単に言うと、男性は血管の老化から生じる致死的な病気で早く亡くなる傾向が強いです。一方、女性は筋肉や骨、関節の衰えによって少しずつ自立した生活を維持することが難しくなっていくという傾向がある。
門倉 たとえば転んで骨折して、寝たきりになるということですね。男性に比べると女性のほうが筋肉や骨の衰えが早いんですか?
鈴木 高齢者になってからの衰え方を見てみると、女性は男性より筋肉や骨の減り方は少ないんですが、もともとの量が男性より少ないため、絶対的な量が少なくなってしまうんです。
門倉 なるほど。
門倉 それは希望が持てる話ですね。私の母は72歳、父は81歳ですが、ふたりとも駅の階段を手すりを使わずにダダダッと走って下りていきます。
鈴木 素晴らしいですね。でも、筋肉は何十年もかけて少しずつ衰え、自覚症状はある日突然現れます。昨日まで大丈夫だったから今日も大丈夫という保証のないのが怖いんです。長年住んでいる自分の家でつまずくようなことがあれば、それは筋骨格系の衰えの最初のサインです。
門倉 少しでもそれを先延ばしすることはできないんですか?
鈴木 脚の筋肉、とくにふくらはぎの筋肉を鍛えることが重要です。つまずくというのは踵や爪先が上がらないから。それはアキレス腱の上にあるふくらはぎの筋肉が衰えるからなんです。ですから、足腰の筋肉を鍛えておくというのは鉄則。それにはできるだけ日常生活で楽をしないことです。
門倉 私は普段からなるべく歩くようにしているんです。子どもの頃から早歩きをするクセがついていて。
鈴木 いいことですね。実は歩く速さは高齢者にとって命のバロメーターです。男女の年代別に歩くスピードと生存率を調べたところ、速く歩く人ほど生存率が高かったという報告があります。いつまでもシャキシャキと歩く姿がきれいな人は生活機能も衰えにくいし長生きできる。
門倉 ふだんからの意識が大切ということですね。
鈴木 そうですね。歩行速度に関してはこんなデータもあります。同じ地域に住む住民の歩行速度を調べたもので、1992年と比べると10年後の2002年のほうがみんな歩くスピードが速くなっていたんです。
門倉 10年で? それはなぜですか。
鈴木 生活が変わったというのが大きい。1992年に80歳だった人は戦争を経験してその後の食糧難がありました。でも彼らの10年後に高齢者になった人は戦争にも行っていないし、カラダができあがる年齢が高度成長期にぴたっと当たる人たちです。冷蔵庫が普及して傷んだものを口にする機会も減り、動物性タンパク質の摂取量も増えるなど、いろいろな条件が揃ったことで非常に健康度が高い。いわゆる団塊と言われる世代がそうなのです。
門倉 団塊の世代というと、週末に山歩きをしているような方々をよく見かけますね。どうりで……。じゃあ今後の高齢者もどんどん歩くスピードが速くなっていくんですか?
鈴木 それはわかりませんね。高齢者の体力というのは子どもの頃の運動量や体力が大きく影響してくるんです。メタボも中年になって急に発症するわけではなく、子どもの頃からの運動不足が尾を引いています。外で遊ばずテレビゲームをしたり塾に通っていた世代は、高齢者になったときの体力が相当に弱いのではと思っています。
門倉 それって、ちょうど私の世代以降くらいの話ですよね。まだ実感は全然ないですけど、怖い話です。
アンチエイジングではない
ウィズエイジングという生き方。
鈴木 40代後半から50 代の女性のもうひとつの大きな心配は、女性ホルモンの分泌が低下して生物学的に大きな変化が起こることですね。閉経後、10 年くらいすると体内環境が激変するので、それまでとは違う生物として生きていくと言ってもいいほどです。
門倉 具体的にはどういうことに。
鈴木 筋骨格系でいうと、閉経期以降は骨粗鬆症のリスクが高まります。骨は筋肉の動きに適応して強くなるので、運動しなければどんどん脆くなっていくんです。たとえば、1週間、入院などで寝たきりになるだけでも起き上がることがつらくなります。
門倉 確かに。私の母方の祖父はドイツ人で、一昨年亡くなったんですけど、しばらく入院することになったときも、ひたすら病院の廊下を歩いていました。自立して生きていくためにいろいろな努力をしていましたね。幸いその努力もあって最期まで自立した人生を送れました。でも、私たち世代が健康寿命を延ばすための運動は、どの程度のものがいいんでしょう。日常生活レベルの運動ではダメなんですか?
鈴木 衰えたものを元に戻そうとするなら、相当強度の高い運動をしなければダメです。90歳のおじいちゃんが自転車をガシガシ漕いでサプリメントをガブガブ飲んで、アンチエイジングと言っているようなイメージ。
門倉 なんだか血管が切れそうです。
鈴木 でも、これ以上生活機能を下げず、自立する力だけはしっかり持っておきたいというのであれば、話は違ってきます。アンチエイジングというより「ウィズエイジング」で、歳とともにそこそこ自立して老いを楽しむという考え方です。これは素晴らしい感性だと私は思います。
門倉 そういう場合は早歩きのレベルでも充分ということですか?
鈴木 自分の好みに逆らってまでキツいトレーニングをするのはつまらないですから。若いときからやっている好きなことで体力と生活機能を維持するものであれば何でもいいんです。
毎日の生活習慣が
健康寿命に与える影響。
鈴木 ナン・スタディというアメリカの修道女を対象にした認知症の研究があります。認知症の代表格であるアルツハイマー病の病変は、アミロイド–βという異常タンパクが脳の中に溜まって、それが最終的に脳神経を傷つけるというものです。ところが非常に長生きで認知症になることが少ない修道女の脳を死後見てみると、実際には脳の神経細胞は傷ついていました。でも、最期まで認知機能や判断力などに問題はなく、認知症と診断された人はほとんどいなかったんです。
門倉 どういうことなんでしょう?
鈴木 朝早く起きて、身体を動かして神に祈りを捧げ、畑仕事をして、食事をしてという毎日の規則正しい生活習慣が認知症の発症を抑制したのではないかと結論づけられました。
門倉 生活習慣がいかに大事かということですね。実はドイツには「生活のリズム」=「健康」という考え方があるんです。
鈴木 ある意味で正しいですね。
門倉 とくに子どもやお年寄りがいる家庭は、朝起きる時間、食事をする時間、昼寝をする時間、夜寝る時間を一定にすることが身体にとって一番いいと言われています。子どもが家族と一緒に食事をするのは当たり前で、その条件に合わなければ塾にも行かせないくらいです。食事の内容や運動も健康維持には大事だけれど、そうした習慣も大切な要素と考えられているんです。あとは吸っている空気がきれいなこと。仕事は都会でして、住むのは緑の多い郊外というのが理想で、どんなに寒くても夜は窓を開けて眠るのが健康にいいとされています。
鈴木 まさしく、ナン・スタディの示唆するところですね。修道院の周りも緑が多くて空気もきれいな環境だったでしょうしね。
門倉 それと、修道院のようにコミュニティの中にいたというのもものすごく大事なことじゃないかと思います。都会で同じマンションに住んでいてもお互い無関心というのは健康寿命にも関わってくるんじゃないでしょうか。
鈴木 そのとおりだと思います。
日常動作での「気づき」が
自立した老後のカギを握る。
鈴木 女性が身体の衰えに気づくようになるのは閉経後の50代後半以降、ほとんどは60代です。さっき申し上げたように、この年代になると女性ホルモンの分泌が低下して身体が変わっていくせいです。骨粗鬆症のリスクを実感するようになり、コレステロール値が上がって体重が増える。上半身の重みが増えて下半身は痩せていきますから足の裏のアーチが落ちてきて扁平足や外反母趾になる。それで、カルシウムやビタミンDが重要だ、と真剣に考えるようになるんです。
門倉 私も含めてですけど、それまではあまり危機感を持たないということでしょうか。
鈴木 そうです。でもそれは仕方のないこと。大切なのは「気づき」だと思います。歩き慣れているはずの家の中でつまずいていないか、ペットボトルの蓋が開けづらくなっていないか。
門倉 あっ、ペットボトルの蓋が昔に比べて開けにくくなってきたな、というのは感じています!
鈴木 若い頃に比べて握力が落ちている証拠です。筋力テストをするよりも、日常生活で今まで苦もなくしていたことが難しくなってきた、そういう小さなサインに気づけるかどうかが大切だと思います。ちょっと「指輪っかテスト」というのをやってみましょう。
門倉 指輪っかテスト? どうやるんですか?
鈴木 椅子に座ってふくらはぎの一番太い部分を両手の人差し指と親指で輪っかを作って囲みます。片方ずつやってみて指がくっつきますか?
門倉 ギリギリくっつきません。
鈴木 門倉さんの年代ではそうだと思います。ふくらはぎの周径は30〜32㎝くらいで、これが維持できていれば家の中でつまずくことはまずないはず。
門倉 指がついたら危ない?
鈴木 といってもこれはあくまで目安です。もし指がつく人でも、その太さをずっと維持できていれば問題はありません。定期的にチェックして、最初は指がつかなかったのがつくようになり、指が重なり合うように変化するというのが危険なんです。歳とともにふくらはぎの筋肉が確実に衰えているということですから。
門倉 知識としてそういうことを知っているのといないのとでは、やっぱり違いますね。定期的にチェックしてみます。さっき話に出てきた祖父は最期まで自立した人生を送りましたが、母もそういうタイプで、父が先に亡くなったらどうするのかをいろいろシミュレーションしています。私もまだそこまでではないけれど、これから10年くらいかけて老年期の人生を少しずつ考えていくことは必要だと思いました。
鈴木 40〜50代のうちに体力を底上げしておけば、それ以降の衰えが緩やかになることは確かです。そのために一番手軽なのは、軽く汗ばむ程度のスピードで歩いて筋肉を使うこと。それをルーティンに行えるライフスタイルを送る意識を持つだけでも、健康寿命を引き延ばすことは可能です。
◎鈴木隆雄さん 国立長寿医療研究センター 研究所長/桜美林大学老年学総合研究所長、同大学院教授。著書に『超高齢社会の基礎知識』(講談社現代新書)など多数。
◎門倉多仁亜さん 料理家/日本人の父、ドイツ人の母の元で育ち、結婚後、料理の世界に。近著に『365日の気づきノート』(SBクリエイティブ)
『クロワッサン』923号(2016年4月25日号)より
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