つらい手指のこわばり、しびれ。あきらめないで、予防と対策
イラストレーション・Jhon Danon 文・野尻和代 構成・中條裕子
女性の平均寿命が87歳以上となった今。一生のうち、女性が無月経で過ごす期間はぐんと長くなっている。
「閉経前後から65歳くらいまでの間に女性の体はさまざまな不調が現れてきますが、手指のこわばり、関節の痛み、しびれなどの違和感を訴える人もこの期間に集中しています」と語るのは、手外科専門医の平瀬雄一さん。
いわゆる更年期症状として、そのような手指の不調を挙げる女性は、肩こりや腰痛に続いて第2位。のぼせやほてりよりも多いのだという。
「女性ホルモンであるエストロゲンが急激に低下する、閉経前後から7〜10年間の更年期に出現する手指の不快な症状をメノポハンドと呼んでいます。この時点ではまだ病気ではなく、あくまで予兆。日によって、痛みやしびれなどの度合いや、それを感じる場所も変わります。だから、つい見過ごしてしまったり、使いすぎ、年のせいと我慢する女性も多かったんです。しかし、そのまま適切な治療をせずに放置していると、こわばりや動かしにくいという症状はどんどん進行。指の変形や関節の膨張など、不可逆性の病気へとステージが変わってしまうのです」
閉経してからも快適な日常を過ごすためには、自分の体が発する警告サインに耳を傾け、対処することが大切だ。
手外科疾患と女性ホルモンの関係
関節が痛む ・変形する
メノポハンドの症状がさらに進行すると、関節の変形が始まる。へバーデン結節は指の第1関節が腫れたり曲がったりして、痛くて手指を強く握れない、中には水疱状の膨らみが生じることも。指の第2関節がこぶ状に膨らみ、曲がってくるのがブシャール結節。痛みの有無は個人差があるが、変形が進むと曲がりにくくなってしまう。
そして、ものをつまんだり、瓶の蓋を開ける時などに、親指の付け根に激痛が走るのが母指CM関節症。動作時ではなく、動作後に痛みが強く出ることも。放置すると親指の付け根の関節が変形して親指が開きづらくなり、さらに進行すると第2関節にも疼痛が。いずれも、最初はエクオールや内服薬、テーピング、注射などで対応するが、変形が進んで痛みも激しくなると、手術治療を行う。
しびれる
手のひらの付け根に手根管というトンネルがあり、その中を9本の腱と1本の神経(正中神経)が走っている。更年期などでホルモンバランスの異常が起きると、腱周囲の滑膜が腫れ、親指から薬指の親指側の指尖部にしびれや痛みが出る。特に夜中の2〜3時や明け方に症状が強く、痛みで目が覚めてしまうことも。朝起きた時に手がこわばっていることも多く、手を振ると楽になる。
症状が進むと感覚が低下し、さらに放置すると親指の付け根の筋肉が痩せ、箸を持つ、字を書く、ボタンかけなどが困難となり日常生活に大きな障害が。初期段階はエクオールのサプリやステロイド注射が有効だが、横手根靱帯が厚く硬くなっている場合や、運動神経まで障害が出ている場合は、保存的治療はあまり効かないことが多く、手術治療の対象に。
こわばり・握りにくい
更年期や授乳期の手指の不調で、最初に起こりやすいのが腱鞘炎の悪化からのばね指とドケルバン病。ばね指は指がこわばって動かしにくい、動かそうとすると引っかかりを感じ、付け根が痛むという症状が現れる。どの指にも可能性はあり、進行すると指は曲がったまま、伸びなくなってしまう。また、指を酷使する仕事の人やスポーツマンにも多いドケルバン病は、手首の親指側に腫れと痛みが生じるのが特徴。どちらも腱や腱鞘に腫れや炎症があるので、局所の安静が必要。
軽症であれば、エクオール含有食品の摂取やサポーターや冷湿布などが有効だが、痛みを止めるなら腱鞘内にステロイド剤を注射する治療も。それでも症状が改善されなければ、腱鞘切開手術の適応になる。
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