失われる女性ホルモン あなたの選択を支える基礎知識
撮影・森山祐子 イラストレーション・マサキヒトミ 構成&文・越川典子
「更年期治療、私も始めています」
婦人科医になって30年、女性医療を専門にして25年。今まで治療してきた更年期症状の年齢にようやく追いついた、と小川真里子さん。
「頭や顔がモワーッと不快になったり、めまいがしたり、低かった血圧も高くなったり。更年期障害の専門家のはずなのに、私に何が起きているのか、と戸惑っている自分がいました」
驚き、あわてて耳鼻科や脳神経科、整形外科に飛び込む人が多いのもうなずける。だがその前に、小さな不調でも「今までと違う何か」を感じたら、まず婦人科へ来てほしい、と小川さん。
「女性ならば当たり前に知っておくべきこと、それが女性医療なんです」
STEP1. 症状を自覚したら婦人科を味方に
女性ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2つがあり、そのうちエストロゲンが女性の健康や美しさに大きく関わっている。
「血管の弾力や骨形成、肌や髪のうるおい、脳機能、自律神経の安定など全身を守ってくれていたのがエストロゲンです。ところが、閉経前後から急激に減っていくため、体や心にさまざまな不調が引き起こされてしまいます」
発汗、肩こり、関節痛、肌や粘膜の乾燥、イライラ、頭痛など、その数は100とも200ともいわれている。
「それが、日常生活に支障が出ると更年期障害という診断になるわけです」
治療法はいろいろだ。女性ホルモン補充療法(HRT)は、もともともっていたエストロゲンを少量補ってあげる根本治療。漢方薬や抗うつ剤のように対処療法的な方法もあり、HRTと組み合わせることもできる。
「何より大事なのは、更年期治療に詳しく経験豊富な婦人科医を探すことです。パートナードクターとして長くつき合えるようになれば、その存在は一生の強い味方になってくれます」
STEP2. 治療が必要か、調べよう
では、婦人科での診断はどのように行われるのか、小川さんに聞いた。
「まず、問診と血液検査をします。エストロゲン値などを参考にしますが、大事なのは、本人の自覚症状です。生活習慣病や既往症などを確認して、根本治療であるHRTを含めて、治療法を検討します。私はよく、(HRTを)1カ月試してみませんか、と提案することがあります。患者さんから、試してみたいと提案してもいいんですよ」
症状が改善されれば、エストロゲン減少に由来する症状だったとわかる。
「その後、HRTを継続したいと思ったら、詳しい検査をして、今後の方針を決めていきます」
HRTは更年期障害の標準治療で、もちろん保険適用。医療費も月に3,000円程度だ。経口剤、ジェルなどの塗布剤、貼るパッチなど剤型もバリエーションがあり、消退出血(月経のような出血)を起こさないような方法も医師と相談できる。
STEP3. 何のための治療か、目的を明確に
「治療を選ぶ場合に大事なのは目的です。そこを明確にしている人は治療効果も高いんです。ちなみに私がHRTを選んだ理由は、(1)症状をやわらげたい (2)(医師として)どんなふうに自分の体が変わるのか体験したい (3)更年期以降のヘルスケアのためです」
とくに(3)のエイジングのスピードを確実にゆるやかにしてくれる予防効果が大きいと小川さんは言う。
「肌や粘膜のうるおいを維持する、血管の弾力を保つ、骨密度を上げる、大腸がんや肺がんの予防、5年以内ならば乳がんリスクにも影響しないことがわかっています」
更年期を過ぎても、元気で働き、人生を楽しむための一手段になっている。
STEP4. 自分で意思決定を
「乳がんリスクを心配する患者さんもいますが、HRTを5年続けると1万人に8人の罹患者が11人に増える程度。この治療のいい点は、年に1回、乳がん、子宮体がん、子宮頸がんの検査をした上で、医師と継続する目的を確認しつつ進められる点です。今の自分にとってのリスクとベネフィット(恩恵)を考えて、納得して選択する。積極的に医療に関わっていく姿勢が大切です」
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