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「まず万能調味料の素、甘麹を作りましょう」、発酵生活研究家に教わる発酵食生活の入り口。

「発酵食のいいところは自分の体が信じられるようになること。
風邪を引いても、少々具合が悪くても、いくらでも挽回できるし、私は大丈夫、って思えるんです」
──そんな体と心を手に入れたい方へ。ここが発酵食生活への入り口です。
  • 撮影・黒川ひろみ 文・葛山あかね

長年悩まされてきた腸の不調を解消、発酵食あふれる食卓。

栗生隆子さん 発酵生活研究家

誤解だらけの人生を変えてくれた発酵の力。

発酵生活研究家の栗生隆子さんは朗らかに笑う人である。好奇心旺盛で話し好き。取材当日もくるくると忙しく動き回っていた──20年にわたり「まともな生活など送れないくらい体調が悪かった」なんて信じられないほどに。

「今でこそ原因は潰瘍性大腸炎と分かっていますが、発症した14歳の頃はワケも分からず腹痛や下痢などに悩まされていました。朝7時に起きても体調が整うのは夕方5時。これじゃ、一日何もできないでしょう?」

友達と遊ぶ約束をしても、出かける5分前に具合が悪くなって結果、ドタキャン。

「そんな日々ですから当時は変わった子みたいに思われていた。もう、誤解だらけの人生です(笑)」

健康を取り戻すため西洋医学をはじめ東洋医学、漢方、鍼灸、ツボに至るまで、これがいいと聞けば遠方にも足を運んだ……けれど「何も効かなかった」。万策尽きて、精神的にも追い詰められた。

人生半ば投げやりになっていた、そんなとき出合ったのが、糀を発酵させて作った甘酒だった。

「抗生物質を飲みすぎていたから私の腸内環境はボロボロ。腸内細菌もほとんどいない状態だったんですが、甘酒を飲んだ瞬間、腸が、私の体の細胞がホッとして、喜んでいるのを感じたんです」

菌と遊ぶように、発酵食を楽しむ。

それからというもの、発酵食を積極的に取り入れた。腸の調子が「なんだか、良い」状態が続き、体の不調が軽減していくと同時に、心までも軽くなっていくのを実感。そこから栗生さんの発酵食への研究が始まった。

「そもそも甘酒の材料である糀って何?からのスタートでした。糀ってカビなの? カビって食べられるの?って(笑)」

知れば知るほど発酵を促す菌(微生物)の力に魅せられた。増殖を繰り返しながら素材を分解すること。発酵によって菌がさまざまな栄養成分や酵素を作ること。考えてみれば味噌や醤油、酢など日本の食卓に欠かせない調味料を育むのも菌である。目には見えない菌の力を知り、「今では菌と遊んでいる、といえるくらい仲良し」という栗生さん。良質な菌を体に入れる=発酵食品を食べ続ける日々を送っているうちに、いつの間にか、自分をあれほど苦しめた不調がなくなっていた。

今回、教えてもらったのはそんな栗生さんの食卓の必需品。自家製の発酵食品の数々だ。

「まず、覚えておくと便利なのが甘糀。2倍濃縮の甘酒のようなものでジャムのようにトロッとしています。普通の甘酒は1週間もすると、発酵が進んで甘味や旨味がなくなりますが、甘糀なら1カ月は大丈夫。砂糖代わりに使えるし、水分が少ないから料理展開しやすいというメリットも」

そのまま野菜や肉、魚を漬けてもよし、醤油や味噌、塩などの調味料と混ぜ合わせて多様な味わいにアレンジすることも可能。もちろん、湯や水で溶けば甘酒として楽しむことだってできる。

発酵食のすごいところは健康的なパワーに加え、おいしさを生み出す力があることだ。

「発酵によって菌や酵素が素材を分解して旨味を作り出すので、料理は味わい奥深く、まろやかになりますし、肉や魚などのたんぱく質も柔らかな仕上がりに。やっぱりおいしいことはとても大事。いくら健康的な料理でも不味いと楽しくないでしょう。楽しいほうが長く続けられるし、細胞も活性化して元気になれると思うんです」

茶粥

一日のはじまり。温かい茶粥と発酵食で腸を喜ばせます。

栗生さんの朝ごはんの一例。豊富な品揃えだが、「朝作るのは茶粥だけ。発酵食は保存ができるから、いくつか常備しておいて、その日に食べたいものをパパッと皿に盛るだけでいいんです」。

【材料(2〜3人分)】
米 ……1 合
水 …… 1.8L
ほうじ茶 …… 1パック(約15g)
※好みでさつま芋、里芋など入れてもおいしい。

【作り方】
1.
米を水で洗い、ザルに上げる。
2.鍋に水とほうじ茶パックを入れ強火にかけ、濃いめに煮出す。
3.茶パックを取り出し、1を鍋に入れる。
4.強めの中火にして、米がくっつかないよう木べらやお玉でかき混ぜながら18分ほど炊く。鍋には蓋をしない。さつま芋や里芋を入れるときは、皮を剥いて好みの大きさに切り、米と一緒に炊く。
5.米の芯がなくなったら火を止め、すぐにコンロから下ろす。

※吹きこぼれない程度の強めの火力で炊きます。茶粥は粘りを出さないように作りたいので、熱伝導率の高い鍋より薄手の鍋で作ると上手にできる。

●まず、万能調味料の素、甘麹を作りましょう。

甘糀(濃縮甘酒)

写真では乾燥糀を水で戻して仕込む甘糀の作り方を紹介。

【材料(作りやすい分量)】
米糀(生)…… 200g
炊いたご飯 …… 200g
水 …… 約400ml

※乾燥糀は糀と同量の水を加えて10分ほど置くと、生糀のようになります

【作り方】
1.
糀を手のひらですり合わせるようにしてほぐす。
2.炊飯器の内釜に糀、60度以下に冷ましたご飯、水を入れる。
3.炊飯器の蓋を開けたまま、50〜60度の温度で6〜8時間保温する。
4.最初の1〜3時間は、1時間に1回かきまぜる。

※蓋を閉めると70度以上になり、麹菌が失活するので、必ず開けておきます。ほこりよけに布やザルを置いたりして工夫します。
※保存は冷蔵庫で1カ月。冷凍庫で6カ月を目安に使います。
※糀の種類により水分が異なるので、仕込み水は糀の高さと同じぐらいに加減します。
※ご飯をもち米に代えてもおいしく作れます。

【うまく作るコツ】
濃縮タイプの甘糀を作るときの水分量は難しい。乾燥糀は最初にしっかりと吸水させること(下記写真5)と、ご飯と糀を合わせたときの水分量はご飯と糀の高さよりやや低めにする(7)と成功しやすくなります。

保温して1時間後に一度かき混ぜますが、このときに水分量が少なく感じる場合は、水をひたひたまで足します。保温3時間までは、糀菌による糖化が始まらないので、これを繰り返します。

3時間以降は糖化が始まりジャムのような硬さになりますが、糖化が始まる前に水を足しすぎると、飲む甘酒のようになってしまい、濃縮タイプの甘糀にはなりません。保存期間も短くなります。

1.ボウルに乾燥糀を入れる。
2.板状の乾燥糀は、手で適当な大きさに割りましょう。
3.ダマにならないように両手ですりすりと擦り合わせながら、しっかりとほぐして。
4.乾燥糀と同量の水(分量外)を加え、10分ほど置く。
5.水分を吸って次第に膨らみます。これが生糀に戻った状態。
6.炊飯釜に60度以下に冷ましたご飯を入れ、5を加えます。
7.水分量はこのくらい。「ちょっと少ないかな?」と思う量がちょうど良い。
8.炊飯器に7をセットしたら蓋はせず、菜箸を2本のせる。
9.ほこりよけにふきんをかけたら、保温キーを押して発酵スタート。

●甘麹を使ったおかず

甘糀納豆

【材料(作りやすい分量)】
納豆 …… 240g
にんじん千切り …… 1/2本
甘糀 …… 大さじ2
醤油 …… 大さじ2
炒りごま …… 大さじ1
切り昆布 …… 少々

【作り方】
1.
材料を全て混ぜ合わせる。
2.容器に入れて、冷蔵庫で保存。

※すぐに食べられるが、2〜3日後から味が熟成して味が馴染む。
※賞味期限は冷蔵庫で1週間ほど。

鶏もも肉の甘糀醤油タレ

【材料】
鶏もも肉 …… 250g
甘糀 …… 50g
醤油 …… 大さじ1と1/2

【作り方】
1.
食品用ビニール袋に甘糀と醤油を合わせ、鶏もも肉を入れて漬ける。
2.
冷蔵庫で30分以上置き、弱火でじっくりと焼く。

栗生隆子

栗生隆子 さん (くりゅう・たかこ)

発酵生活研究家

発酵食により健康を手に入れた経験を通して、その素晴らしさを伝えるべくテレビや雑誌、講演活動などで活躍中。著書に『不調知らずの体になる ここからはじめる発酵食』『腸を元気にする〝つくりおき〟発酵食』『からだにおいしい発酵生活』など多数。栗生さんのブログ『ようこそ!発酵cafeへ』https://ameblo.jp/cafe-baum/

※プロフィールは雑誌掲載時の情報です。

『Dr.クロワッサン 強い腸をつくる、発酵食の摂り方大百科。』(2021年2月18日発行)より。

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