認知症のリスクを低減する生活習慣と心身の管理について、WHOのガイドラインでは12の項目が示されている。その中のひとつが、五感を刺激して脳を活性化しようというものだ。杏林大学名誉教授の古賀良彦さんによると、五感刺激のうち、最近特に注目されているのが、聴覚への刺激だという。
「マサチューセッツ工科大学のリー・ファイ・ツァイ博士の研究で、マウスに40Hz周期の断続音(*1)を聴かせたところ、ガンマ波という脳波が発生し、アミロイドβが減少しました。アミロイドβとは、脳神経の周囲に発生するタンパク質で、神経細胞を死滅させ、認知症の7割を占めるアルツハイマー病を発症させ、進行を促進します。ガンマ波の発生でこの物質が有意に減少したのです。また、空間記憶も改善、これはヒトで言えば、自分の居場所がわからなくなってしまう症状の改善が期待できるということです」(古賀さん)
この研究はヒトへの応用も進められていて、ツァイ博士の研究では、ヒトも40Hz周期の断続音を聴くと、脳が活性化するという結果が得られている(*2)。
「ヒトは情報の7割を視覚に頼っていますが、その次が聴覚です。聴覚は嗅覚と同様に、常に開かれています。つまり、受け身の状態でも、音は聞こえている。運動や食事といった特別な努力をしなくても、ただ40Hz周期の音を聴くだけでガンマ波を発生させ、認知症の予防や進行の防止につなげられたら、非常に画期的です。2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になるといわれている今、国内外での研究がさらに進むことを期待しています」