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くらし

エッセイストの岸本葉子さんの元気と脳を支える、俳句とダンス。

年齢を聞いて、えっ!と思わず声が出てしまうほど若いあの人は、一体何をしているのでしょう。
いつも元気なエッセイスト、岸本葉子さんの秘訣を聞きました。
  • 撮影・青木和義 文・嶌 陽子

吟行で脳と体をリフレッシュ。ダンスフィットネスも大好き。

「俳句って、実は頭だけでなく体も使うんです。吟行の時は案外長い時間歩き回るので」

新緑の中、ノートとペンを手にそう話す岸本葉子さん。今年62歳になるが、俳句歴は40代後半から、15年ほどになる。出合いのきっかけは、ゲストで呼ばれたテレビの俳句番組。その後しばらくして、知人の紹介で句会に参加、それ以来生活に欠かせないものになった。

「句会では句を書いて提出し、メンバー同士で好きなものを選び合います。無記名なので忖度が働かないのも魅力。仲間に読んでもらうことで張り合いも出るし、一種のゲーム性もあるんです」

たとえば「1分間で1句作る」といった時間制限がある場合も。果たして1分で作れるのかというドキドキ感や、作った句が選ばれた時のワクワク感はやみつきになるという。

「即興で作ると、自分でも全く考えていなかった言葉が飛び出てくることも。知らなかった自分にたくさん出会える、という感じです。俳句というと静かなイメージがあるかもしれませんが、スリリングなことも多く、脳がすごく刺激されています」

予測不能な事態に反応するうち、固まりがちな思考がほぐされる。

吟行の時に持ち歩くポケット歳時記とノート。「その場で五七五を詠む時もあるし、目についたものをメモしておくことも」

吟行は、月1回ほど句会の仲間とさまざまな場所に出かけ、俳句の題材を探しながら歩くというもの。

「景色を見ながら、ゆっくりと1時間半ほど。距離としてはそれほど長くないのかもしれませんが、外に出て足腰を使うことが大事なのだと思います。そのおかげか、句会のメンバーは年を重ねてもとても元気です」

もう一つ大きいのは、考え方への影響。予測不能な事態を受け入れ、それに素直に向き合うことで、年齢とともについ固まりがちな思考や態度がほぐれてきたと話す。

「たとえば、桜の時季に吟行に出かけても、必ずしも青空の下で桜が満開なわけではなく、桜が散った後だったり、雨が降っていたりすることもしょっちゅうです。でも、それは『あいにくの雨』なのではなく、雨の桜を詠めばいいだけのこと。年を重ねるとつい『こうあるべき』という思いが強くなりますが、俳句を続けるうちに、どんな状況もそのまま受け入れて楽しむという、柔軟性が身についたような気がします」

汗をかいて肌も生き生きする、ダンスフィットネスに夢中。

毎日の食事は自炊が基本。旬の野菜と魚を基本とした和食が中心で、発酵食品や大豆もよく取るようにしている。こうした食事と俳句に加えて、運動もまた、岸本さんの健康を支える大事な柱だ。

40代後半から5年間携わった父親の介護を通じて筋肉の大切さを痛感し、ジムに通うように。そのジムでここ数年夢中なのが、ズンバやサルセーションなどのダンスフィットネスだ。最近は多い時で週4回レッスンに参加していて「この1年ほどが人生で一番運動しています」と話す。

「それまでは必要だと思って筋トレをしていましたが、もともと運動は好きではなく、つらいのを我慢して義務感でやっていたんです。ある時たまたまレッスンに参加したら、音楽にのって体を動かすのが気持ちよくて。気づいたら60分間のレッスンが終わっていました。それ以来、すっかりハマってしまい、緊急事態宣言中でジムが休みだった時期は、自宅で動画を見ながら踊っていたほどです」

ダンスフィットネスを始めてから、体にうれしい変化が起きた。睡眠の質が上がったほか、たくさん汗をかけるようになり、冷えやすい体質が改善。肌ツヤもよくなったという。

「無我夢中で踊ることで自己解放ができるし、いいエネルギーを発散できているように感じます。昔、ダンスは不良がすることと思っていた私が50歳を過ぎてからこんなにハマるなんて(笑)。苦手意識があるものでも、一度は試してみると、思わぬ出合いがあるかもしれません」

ここ数年は以前より体力がついたという岸本さん。骨密度は年齢平均より高く、体組成計にのった時に表示される体内年齢は、実年齢より15歳若いのだそう。何よりその姿勢や軽やかな歩き方が、日々の積み重ねの効果を雄弁に物語っている。

「俳句もフィットネスもそうですが、ずっと同じことばかりではなく、慣れないことや新しいことをするのも大事なのかも。思いがけない刺激を受けてそれに反応することで、心身を元気に保てる気がします」

『岸本さんの日々の元気を支えるもの』

●仕大胆なスポーツウェアで気持ちも若々しく。

ダンスフィットネス用のウェアと靴。「ダンスの雰囲気に合わせて派手めなものを。ヒョウ柄のレギンスを穿くなんて、昔は考えられなかったけれど、慣れると楽しいです」

●野菜と魚がメインの素朴な和食が毎日の食卓に。

ある日の夕食。味噌汁、玄米、焼き魚、納豆、自家製ぬか漬けなど、伝統的な和食が基本。「野菜は水煮にしておくなど、数日分をまとめて下ごしらえしておきます」

●モチモチしていておいしく、体調も整う酵素玄米。

時々食べている酵素玄米。玄米に小豆と塩を加え炊飯器で炊き、3日ほど保温して熟成させてから食べる。「体調管理のためもありますが、おいしいので気に入っています」

●その時々の野菜で作る簡単ピクルス。

水、酢、岩塩、きび砂糖に少しの唐辛子を加えて、その時冷蔵庫にある野菜を漬け、3日以内に食べ切る。「野菜を取りたいけれどおかずを作る時間がない時に便利です」

岸本葉子

岸本葉子 さん (きしもと・ようこ)

エッセイスト

1961年、神奈川県生まれ。大学卒業後、会社勤務、中国留学を経てエッセイストに。著書多数。近著に『60代、かろやかに暮らす』(中央公論新社)。

『クロワッサン』1094号より

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