好奇心を持ってアンテナを張る。84歳の着物スタイリスト・大久保信子さんのきれいを保つ美意識。
美しさは年齢ではない。80代の大久保信子さんに話を聞いた。
撮影・三東サイ 文・辻さゆり
「何十年もヨガを続けています。 床屋さんの顔剃りも効果的よ。」
日本初の着物スタイリストとして今も着付けの講座や着物のデザインなどで活躍している大久保信子さん。この日の着物は紫の江戸小紋にバラ柄の帯。バラの間には蝶々が飛び交い、ふんわりとした春を感じさせる。着物や帯を身につける際には、何かコツのようなものがあるのだろうか。
「私はいつもその人が着ている洋服の色を基準にアドバイスするようにしています。好きだからその色を選んだわけでしょう? 洋服で培った色彩感覚を否定せず、和と調和させればいい。それから、自分の欠点を隠して、長所を生かす着方を見つけることね。何回か着ていると、ツボにぴしゃっとくる着方がわかってきますよ」
子どもの頃から日本舞踊を習っていたという大久保さんは、歩いていても座っていても背筋がピンと伸び、一つ一つの所作が美しい。実家は日本橋の木綿問屋。学校帰りにはよく歌舞伎座に立ち寄り、歌舞伎を観ていたと言う。
「歌舞伎は着物やお化粧を勉強するのに最適の場。こういう人はこんな色の着物を着るんだということがよくわかります。着物を着た時のお化粧も、女形を参考に、目の縁にちょっと赤味を加えれば『和』になります」
間近で話を聞いていても、肌はつやつやで、シワも少ない。
「母から『芸者さんはみんな顔を剃りに行ってるんだよ』と聞いてから、みんながエステに行くところを、私はずっと顔剃りに床屋さんに行っています。最初は人形町で、次は竹橋のパレスサイドビルにあるお店。剃ってもらった後はお化粧ののりがいいですよ」
もう一つ、大久保さんが顔のお手入れで愛用しているのが海綿スポンジだ。
「クレンジング後、石鹼をシュッとつけて洗えば、きれいに汚れが落ちます」
50歳になったら運動したほうがいいと勧められ、30年以上前にスポーツクラブに入会。コロナ禍の前は週に1回はヨガ教室に通っていた。
「仲良くなった人とご飯を食べて帰るのも楽しいし。今でも彼女たちとの電話から世の中の情報を得ています」
好奇心を持ってアンテナを張るのも、大久保さんの活力になっているようだ。
「地下鉄に乗った時は広告を見て、自分の教室のカリキュラムに使うキャッチフレーズのヒントにしているの。人に何かを伝えたい時は、短くても中身の濃い言葉を使わないと伝わらないじゃない? そうか、こういう言葉を使えばいいんだって参考にしています」
『クロワッサン』1088号より