腰痛を予防するには? 医師に聞く「腰の健康寿命」を守るポイント。
文・山下孝子 イラストレーション・松元まり子
治療が必要な腰痛でも手術になるのはわずか
治療が必要になる腰痛は約2割とのことですが、どういった治療が行われるのでしょうか。
「症状が腰痛だけの場合は、骨や関節、その周辺の筋肉・靭帯・神経に関する病気の治療を行っている整形外科を受診するのが一般的です。『外科』という言葉は手術のイメージが強いようですが、腰痛治療で手術になるのは手術以外の方法で解決できないときで、基本的に保存的療法になります」
保存的療法とは、筋肉を鍛えるための運動の指導(運動療法)、患部を温めたり電気を通したりすることで痛みを緩和(物理療法)、腰痛を引き起こす動作や習慣の改善の指導、そして薬を投与する薬物療法などの総称です。
「脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアは『神経根(しんけいこん)型』と『馬尾(ばび)型』というタイプに分かれていますが、患者の割合は神経根型が9に対して馬尾型が1ぐらい。手術が必要になってくるのは、この馬尾型でも麻痺症状を伴う場合は手術を急ぎますが、それ以外は長期間(2~3ヶ月以上)強い症状が続く場合に手術をすすめます」
腰痛で手術になるのは、保存的療法を行っても長期間症状が改善しない場合や、間欠性跛行(はこう)(少し歩くと足が痛みやしびれで動かなくなり、休むとまた歩けるようになること)や排便・排尿がしづらくなるといった神経障害が現れた場合です。神経障害はかなり状態が悪化しているシグナルのため、放置すれば手術しても後遺症が残る可能性もあります。
「例えば腰椎椎間板ヘルニアの手術には、背中を5センチほど切開して、執刀医が肉眼で患部を見ながらヘルニアを摘出する『ラブ法』という手法がありますが、技術や機器が常に進歩していますので、患者の体にかかる負担は、昔に比べればかなり減っています。内視鏡手術の場合は、ラブ法よりも切開の範囲が小さいため、術後の回復も早くなりますね」
ただし、同じ病気であっても、患部の状態は患者一人一人で異なります。そのため、内視鏡が使えない状態であったり、内視鏡を使った手術が最適でなかったりすることもあるそうです。
【通院理由となる上位5傷病】
【注意点!!!】
男女ともに通院の理由第1位の高血圧に比べると、腰痛症は数字が小さく見えますが、腰痛の予防・改善(適度な運動とバランスのよい食事)をしていれば、高血圧症のリスクも減ります。
違和感や不安があればすぐに病院で診察を
日本の女性は男性よりも平均寿命が長いため、加齢も大きな要因である腰痛の対策は、老後のことを考えれば大切になってきます。
「実は、女性ホルモンのエストロゲンは骨吸収だけでなく、コレステロールの調整もしてくれています。閉経した女性に内臓脂肪がつきやすいのはこのためです。お腹回りに脂肪がついてしまうと、骨盤が前に傾いて姿勢が悪化し、腰痛が引き起こされます。
また、家事の大半を女性が担っていますが、掃除や洗濯は腰を曲げる動作が多くなります。
そうしたことを考えると、男性よりも女性のほうが腰痛のリスクは高いといえますね。ただ、女性はもともと痛みに強いうえ、年配の方ほど我慢強い方が多い。
痛みは体からの異常のシグナルですから、違和感や不安を覚えたら、一度病院で診察を受けてみてください。ただの運動不足だとわかれば、腰痛の悪化を恐れずに体を動かすことができますし、治療が必要な病気が判明すれば、症状の悪化を防げます」
【生活にサポートが必要になったきっかけベスト3】
骨折などによって寝たきり⇒認知症になる可能性が高いことを考えると
【腰痛】を放置することは老後の生活の質を落とします!
『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。