からだ

懐かしい思い出が脳を刺激する!? 「回想の力」で脳を健やかに保つ。

  • イラストレーション・北野 有 構成&文・小沢緑子

回想脳ワーク〈応用1〉懐かしさ × 体を動かす

基本編を体験したら、次は応用編。

「運動も脳の健康を保つ大切なカギに。回想の力と組み合わせることで、よりよい効果があると考えています」

特にウォーキングなどの有酸素運動をしてしっかり体に酸素を取り入れると、脳の神経細胞の栄養素となる脳由来神経物質が作られるという。

「息が弾むくらいの早歩き程度でも充分です。また運動とまでいかなくても、日常生活の中で体や手指を動かすことも脳のいろいろな領域を使うことになり刺激となります」

気分転換にもなる、体を動かしながらの回想脳ワークも取り入れよう。

[先取りノスタルジア 2]出かけた先でプチ土産を買う。

休日にどこかに出かけたら、ついでにプチ土産を買うことも先取りノスタルジアに。

「その場所を思い出せるものなら、キーホルダーなど気軽なもので充分。未来の自分のためのプレゼントと考えると、土産物探しも楽しい思い出になると思います」

[ワーク1]懐かしの校舎や通学路を歩いてみる。

「小学校、中学校など、自分が通っていた学校の校舎を見に行くのはおすすめです。毎日、そして何年も通い続けてさまざまな思い出がある場所ですし、卒業後はしばらく離れて遠ざかっていた場所のため、ひときわ懐かしさがこみあげてくると思います」

たとえ校舎の中に入らなくても校庭の周りや、当時の通学路やよく寄り道した場所などもたどってみよう。懐かしさとともに運動効果もアップ。

[ワーク2]古いものがある博物館、美術館など、館巡りをする。

「基本的に懐かしいと思う感情は個人的な体験や記憶に基づくものですが、もうひとつ、自分は直接見たことがなくても、祖父母など年配者から聞いた昔話が印象に残っていて、古い建物や物に愛着や懐かしさを感じる『歴史的ノスタルジア』という感情もあります」

昔の建物を再現したり、懐かしの郷土玩具や道具などを展示する博物館や美術館、資料館に行くのもおすすめ。

[ワーク3] かつての習い事を再開する。

脳の神経細胞は生まれてからどんどん減っていくが、その一方、何か新しいことを学ぶたびに神経細胞同士をつなぐ回路が密になるともいう。

「小さい頃に経験した習い事を再開することは懐かしさとともに脳のためのよい刺激に。たとえば楽器演奏なら手指を動かすことに加え、楽譜を見て理解し、覚えて弾くという一連の作業があるため、脳の複数の領域を同時に働かせることができます」

[ワーク4]思い出の地を 訪ねて写真を撮る。

「旅行で思い出の地に出かけたら、カメラで写真を撮るのもいいこと。『何を撮ろう』から始まり、自分のイメージどおりに撮るために瞬時にいろいろ考え判断することが多いですから」

さらに被写体を探すために夢中になって歩き回ることもいい運動になる。

「以前も写真に撮っていた場所があれば、同じ角度で定点写真として残すのも面白いです。昔と今の違いがひと目で見比べられる楽しさも味わえます」

回想脳ワーク〈応用2〉懐かしさ × 人と会話する

もうひとつの応用編が、懐かしいという感情と、人とのコミュニケーションの相乗効果を期待するワーク。

「前述しましたが、懐かしいという感情は昔の物事に対してだけではなく、その背景に人との温かなつながりや思い出があるからこそ、生じるもの。また、人と会話すると相手の気持ちを理解しようとするため、言語を司る領域のほかにも、脳のさまざまな領域が働きます」

家族をはじめ、懐かしさを共有できる人たちと積極的につながって楽しく会話を交わすことは、脳を健やかに保つ重要なカギとなる。

[先取りノスタルジア 3]旅行や遠出をしたら地図にルートを描いて残す。

旅行などに出かけたら、そのルートを地図に書き込んで残しておくと後から振り返るときのより具体的なキューとなる。

「物理的な場所と思い出をリンクさせると、点と点でしか覚えていなかった断片的な記憶もひとつの線として明確につながります」

[ワーク1]同窓会に積極的に参加する。

同窓会のよさは、本人はすっかり忘れていたことも同級生は覚えていて「そういえばあんなことがあった」と、思い出が次々に引き出されること。

「無意識の世界に沈んでいた記憶が意識下に戻るきっかけに。顔を合わせて話すのが理想ですが、叶わないときはSNSでの交流も効果はあります」

たとえば時々懐かしい写真を投稿すればそれがひとつのキューとなり、SNS上でも思い出話は広がるはず。

[ワーク2]学生時代の友人と大人の遠足に行く。

「同窓会とまでいかなくても学生時代の友人と久しぶりに会う機会があったら、当時学校行事の日帰り遠足などで行ったことのある場所に一緒に出かける『大人の遠足』を計画するのもいい方法だと思います」

当時と同じ経路をたどれば「あそこで記念撮影をしたね」「そういえばAちゃんが忘れ物をしてみんなで探し回ったよね」などと、芋づる式に思いがけないことまで思い出すきっかけに。

[ワーク3]昔のアルバムを親と一緒に見る。

親も、昔の記憶を共有できる存在。

「その際は、古い家族アルバムがお互いに昔のことを楽しく思い出しながら話せるいい小道具になってくれます」

親が若い頃の写真が残っていればそれを一緒に見るのもいい。

「『これはいつ?』『この人は?』などとどんどん質問して聞き出しましょう。今まで知らなかった一面も発見できるかもしれませんし、親とのコミュニケーションも一層深まると思います」

[ワーク4]アナログゲームを家族と楽しむ。

「童心に帰る意味では、子どもの頃に遊んだゲームもよい回想脳ワークのキューになると思います。ひとりでできないゲームなら一緒に遊んだ人との思い出があるのではないでしょうか」

さらにコロナ禍のステイホームの影響もあり、このところ、家で気軽に楽しめるアナログゲームは密かにブーム。ロングセラーのボードゲーム、根強い人気のカードゲームなどを使って、家族で盛り上がって楽しんでみては。

瀧 靖之

瀧 靖之 さん (たき・やすゆき)

東北大学加齢医学研究所 教授、医師

医学博士。MRI画像を集積、解析し、脳の発達や加齢の仕組みを明らかにする研究を行う。著書に『回想脳』など。

『クロワッサン』1066号より

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