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熱中症対策に経口補水液。血圧は大丈夫?【クロワッサンライターの身になる話】

クロワッサンのライターがお役立ち情報を発信する連載【身になる話】。執筆した医療・健康本は100冊を超える医療ライターが夏の水分補給の注意点を解説します。
  • 文・韮澤恵理

熱中症対策にスポーツドリンク飲みすぎてない?

暑い時期になるとニュースでもひんぱんに取り上げられるのが熱中症。炎天下でのスポーツや屋外で歩き続けて倒れるというようなイメージがありますが、それだけではありません。最近では、室内で過ごしていた高齢者が熱中症で亡くなる事故も増え、対策に注目が集まっています。

そんな中で、知人が「熱中症が怖いから、夏はスポーツドリンクを水代わりに飲んでいるのよね」と言うので、聞いてみると……。これまでは日常の水分補給はペットボトルのお茶や水だったけれど、「ニュースを見て、せっかくならミネラルも補給できるスポーツドリンクがヘルシーかなと思う」と。1日に500mlのペットボトルで2本程度は飲むようにしているそう。

気になったのは、その知人がちょっと血圧高めで減塩を指示されていると聞いていたからです。最近太り気味でダイエットも心がけているとも話していました。どんなふうに飲んでいるのか聞いたところ、休憩のたびに水代わりにこまめに飲むようにしているそう。特に運動をしているわけではないので、仕事や家事の合間に飲んでいるみたいですが、これって大丈夫なのでしょうか?

スポーツドリンクや補水液の塩分を見過ごさないで!

スポーツドリンクにはカロリーが高いものもあるので、ダイエット中には要注意だと聞いたことはあるのですが、かすかにしょっぱいあの味、塩分も調べてみたいと思いたちました。そこで、身近な製品の成分表示を確認してみると、似たように感じていた製品でも成分には違いがありました。

まず、スポーツドリンクとしてよく知られているA社の製品は100mlでエネルギー25Kcal、塩分0.12g。B社の製品はエネルギー19kcalで塩分0.1gです。B社の製品にはカロリーゼロのタイプがあり、エネルギーは0ですが、塩分は0.1gです。これを500mlのペットボトル1本に換算すると、A社のものでエネルギー125Kcal=ご飯茶碗に半杯分、塩分は0.6gなので、1日の摂取量の10分の1弱です。B社のものもエネルギー量が若干低いけれど塩分はほぼ同じ。これ、血圧が高めで減塩している人には見過ごせない数字では?

さらに、似たようなものだと思っていた経口補水液はさらに塩分が多めです。こちらは発汗などで急激に失われた水分と電解質(塩分などのミネラル)を補給したり、発熱や下痢などで脱水した人にも役立つ飲料。人気の高いC社の製品を見てみると、100mlあたりで、エネルギーは10kcalと低めですが、塩分は0.293g、他にミネラルやブドウ糖も含まれています。500mlのペットボトル1本で塩分が1.46gとスポーツドリンクよりかなり多めなことがわかります。

スポーツドリンクは日々の暮らしの中で、体を動かす仕事をしたり、運動で汗を流したときの水分とミネラルの補給を目的としているのに対し、経口補水液は脱水したときの対策になるように調整されているんですね。熱中症かも……というときには体液に近い飲料を飲むのが一番の応急処置なので、いざというときには経口補水液は心強い味方です。ただし、日常の水分補給を目的に、スポーツドリンクや補水液を飲み過ぎるのは、塩分の摂り過ぎになる可能性がありそうです。

塩分摂取の目標量は大人の女性で1日6.5g!

塩分の摂り過ぎが健康を損なうことはみんな知っていますが、実際にどのくらいが適量なのか、知っていますか? 2020年に厚生労働省から発表された「日本人の食事摂取基準」によると、健康な成人女性では1日6.5g、男性でも7.5gが基準です。多くの人が塩分を摂りすぎている傾向にあるのに、水分補給のドリンクからさらに1日分の約1割の塩分を摂るのはやりすぎなことがわかりますね。せっかく減塩しているのに、意外な落とし穴では? 何気なく口にする食品や飲料の成分表示を確認する習慣を身につけたいですね。

熱中症の応急処置と予防はぜんぜん違う

そもそも熱中症とは、体温の調節ができずに急上昇したり、体内の水分や塩分のバランスをとることができなくなる状態です。炎天下はもちろん、気温の高い室内でも起こります。

気温や運動によって体温が上がると、末梢血管が拡張して皮膚から熱を発散したり、汗をかいて、蒸発によって体温を下げようとします。この機能が追いつかないと、熱中症が起こるわけです。体温を下げるために末梢血管に血液が集中。すると脳が血液不足になり、めまいや脳貧血などを起こします。さらに大量の汗とともに塩分が排出されると、浸透圧のバランスがくずれて血液などが薄くなり、これを解消しようとさらに水分を排出するため、脱水症状が加速していきます。それでも体温調整が追いつかないと、体温が著しく上昇して命の危険も。

熱中症の応急処置に経口補水液が最適なのは失われた塩分などを補って、脱水のスパイラルを止める最適な方法だから。暑さで気分が悪くなったり、倒れてしまったときには、体を冷やすとともに、水分と塩分を補える補水液やスポーツドリンクが効果的なのです。運動中に足が攣りそうになったり、めまいやふらつきを感じたら熱中症が疑われるので、その時点で運動を止めて、涼しいところで冷たいスポーツドリンクなどを飲んで様子をみましょう。

逆にいえば、大量の汗をかいたり、体温が上昇していないときには水分だけ補給すれば十分。予防のために塩分を補う必要はありません。むしろ水や麦茶などをこまめに飲むのがおすすめです。ただし、コーヒーやお茶、ビールなど利尿作用の強い飲み物は逆効果なので要注意です。トイレが近くなり、体内の水分量は減ってしまいます。ヘルシーな印象のフレッシュフルーツジュースやスムージーも飲みすぎると糖分の摂り過ぎに。

さらに、予防のための水分補給は冷たくなくても大丈夫です。エアコンの効いた室内にいるなら、体を冷やさないためにも、温めの白湯や、温かいハーブティーなどがいいですね。暑いときには疲れやすくなるので、疲労回復効果のある酢酸やクエン酸を含むドリンクも効果的。レモン水やビネガードリンクを飲むとスーッと疲れがとれます。

知人の例もそうですが、一つのワードに振り回されず、必要なものだけを補う判断が大切という当たり前の話です。

運動不足やクーラー生活で体温が調整できなくなる

最近では、お年寄りが室内で熱中症になることもよく話題になります。これにはたくさんの原因があるのですが、一つは年齢とともに体温を調整する機能が衰えること。さらに体内の水分量が減ってくることもわかっています。さらに、「暑い」「のどが渇いた」という感覚が鈍くなっているのにエアコンを好まず、室内の温度が高くなっても気づかない、動くのが億劫で水分補給が足りないというのも一因だそう。

実はこれ、高齢者に限りません。現代の生活は、体温調整機能を低下させる要因がたくさんあります。体温の上昇を発汗や呼吸で整える機能は、使わないと衰えていきます。運動で汗をかく習慣がないと、いざというときにうまく汗がかけないのです。エアコン漬けで、暑さを体感しない生活も同様に温度に順応する力が衰えます。

軽く汗ばみ、息が上がる程度の運動を習慣にすると、体温を調整する力を鍛えることができるようになります。コロナ禍のいま、運動不足の解消を心がけることが熱中症予防にもつながります。体を動かしているときと、そうでないときの飲み物のセレクトにも気を配れば満点。マスクをしていると、つい水を飲む回数が減ってしまうので、意識して水分不足が起こらないようにし、今年の夏を乗り切りたいものです。

クロワッサン医療ライター

韮澤恵理 (にらさわえり)

健康と食のエディター、ライター。出版社勤務後に独立してフリーに。ダイエット、健康法、エクササイズ、料理などの実用書籍やムックを編集制作している。生活周りの情報収集が趣味。

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