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疲れているのは体ではなく脳? 疲労回復の鍵は「自律神経」にアリ。

疲れているのは体ではなく脳。疲れって、そもそもなんなんでしょう。
全身の調整をしてくれている自律神経が鍵を握っているというが……。

撮影・水野昭子 イラストレーション・松元まり子 文・佐野由佳、小沢緑子

(3)疲労感は体からの危険信号と考えるべき。

「家事、仕事、運動、眼精疲労、精神的な疲れ、睡眠不足……あらゆる疲れは自律神経の疲労から起こります。私たちが生きていくために必要な体内のバランスを整えてくれるのが自律神経なわけです。呼吸、体温、消化吸収など、さまざまな現象をコントロールしています」

言ってみれば、体の司令塔のようなもの。全身の調整をまるごと一気に引き受けているのが自律神経というわけだ。

「自律神経には交感神経と副交感神経という2つがあります。交感神経は、体を活発に活動させるときに働きます。たとえば、運動をすると心拍数が増え、血圧が上がり、汗をかき、呼吸が速くなります。こうした作用は、交感神経の興奮によるものです。反対に、体がリラックスし、落ち着いた状態のときに働いているのが副交感神経です。眠っているときや食事中などには、副交感神経が体に働きかけ、胃腸の働きを活発にする、心肺機能を抑えるといった調整を行っています」

食べすぎ、飲みすぎ、歌いすぎ……とかく暴走しがちな人にとっては、命を守ってくれる、ありがたい存在ともいえる。

「食べたものを消化して、栄養素として必要なところに届けるのって、思っている以上に大変な作業なんですね。普通の食事でも体にとっては重労働なのに、暴飲暴食となると、体にとっては暴力以外の何物でもないわけです」

■ 胃もたれは自律神経からのもう食べないでというサイン。

これ以上、食べられたら本当に無理なんですけど、という声なき声を発するのも自律神経の役割だ。

「調整するだけでなく、危険信号を発するわけです。もうこれ以上、食べないでほしいから胃が疲れていると感じさせる。それが、『胃もたれ』の正体です」

ウコンのドリンクを飲んでまで、さらにもう一軒行ったりするのは、自律神経にとっては自殺行為に等しい。
疲れたくなかったら、自律神経に危険信号を出す必要を感じさせなければいい。自律神経をピリピリさせなければ自然と疲労感もなくなってくるはずだ。

胃もたれは食べるな!のサイン

疲れているのは体ではなく脳?  疲労回復の鍵は「自律神経」にアリ。

食べすぎる
 ↓
胃が大変
 ↓
消化をコントロールする自律神経も大変
 ↓
(これ以上食べてほしくない)
 ↓
胃を疲れさせる
 ↓
【胃もたれ】

暴飲暴食をすると、胃の消化活動をコントロールする自律神経の負担が増加。もう食べないように、胃を疲れたと感じさせ「胃もたれ」となる。また、自律神経が乱れると、消化不良などの胃の不調が現れることも。

(4)疲れを感じないのが、いちばん危険。

自律神経が疲れないように生活するには、具体的にはどうすればいいのだろう。

「疲労は足し算で考えてほしいんです。入浴も含めた運動による疲労、頭を使う疲労、それからストレスによる疲労を足して、一日の合計が一定かつ低いほど望ましいです。だから、朝から晩まで働いた日は、ジムで運動するのはやめる。夫とけんかした日には、入浴しないで早く寝る。そうやって、一日の疲れの合計を意識して過ごすといいと思います」

疲れた日にこそ、湯船につかってゆっくりしたいところだが……。

「汗をたくさんかくと自律神経に負担をかけて、運動をしているのと同じ状態になります。大リーグのダルビッシュ投手は、ふだんは普通にお風呂に入るそうですが、登板した日には絶対に入らないとか。体や神経を酷使した後に入浴すると疲労が増すことを、科学的な知識として知っているんですね」

日常のなかで、疲労について誤解していることは山ほどあるのかもしれない。体によかれと思ってしていることが、疲労につながるだけというのは、あまりにも切ない。

■ 楽しすぎたり充実していると、疲れを感じなくなってしまう。

「仕事帰りのジムというのも典型的ですね。実際に汗をかけばスッキリしますし、運動をした達成感もあるし、充実感もある。それが、じつはへとへとに疲れているということを気づかなくさせてしまうんです。
『隠れ疲労』と呼んでいますが、これこそが気づかぬうちに大病を招いたり、最終的には過労死にもつながる、現代の大きな問題だと思っています」

忙しいからこそ休日には自分の好きなことをと、映画を観に行ったり、温泉に出かけたりすると、テンションが上がっているので自分では疲れていることに気がつかないが、体は悲鳴を上げている。

「何もしない休日を作ることを心がけるのが、何よりの『疲れないコツ』かもしれません」

運動や入浴では疲れはとれない

【間違った考え方の式】
「体を使えば、疲れはとれる」は×

[家事の疲れ( 100 )]-[エクササイズ( 50 )]-[入 浴( 50 )]=0

【正しい考え方の式】
「体を使えば、疲れはたまる」は○

[家事の疲れ( 100 )]+[エクササイズ( 50 )]+[入 浴( 50 )]=200

デスクワークや家事の疲れを、入浴や運動で解消できると思うのは間違い。自律神経がより疲弊し、疲れが増幅することになる。頭を使う疲れ、体を使う疲れ、心を使う疲れは、すべて積み重なっていく。疲れをとるのは「良質な睡眠だけ」と心得て。

疲れているのは体ではなく脳?  疲労回復の鍵は「自律神経」にアリ。
  • 梶本修身

    監修

    梶本修身 さん (かじもと・おさみ)

    東京疲労・睡眠クリニック院長

    1962年生まれ。医学博士。2016年、「一人でも多くの疲労に悩む人を救いたい」と、東京疲労・睡眠クリニックを開院。穏やかな物腰と的確な診察が信頼を集めている。著者多数。

『Dr.クロワッサン 新装版 疲れないコツ』(2019年7月29日発行)より。

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