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西洋医学的に病名がつかない状態にも対処法が? 和漢診療科の医師に聞く漢方が得意なこと。

「困ったときの和漢診療科頼み」。千葉大学医学部附属病院和漢診療科のホームページにそんな言葉を見つけ、どういうことかを確かめようと和漢診療科長の並木隆雄さんに話を聞きました。「患者さんが訴えるさまざまな症状の9割は治せる」というそのココロは?
  • イラストレーション・宇和島太郎

冷たいものを食べるほど、熱くなっていく?

西洋医学的に病名がつかない 状態にも対処法があります。

千葉大学医学部附属病院和漢診療科で、日々、患者を診察する並木隆雄さん。和漢診療科には市中の病院では治療が難しい患者や、大学病院の他科から紹介された患者が受診にやってくる。

患者のなかに、足は冷えが強く、頭はのぼせてつらいと訴える人が少なからずいるという。

「そんな患者さんに、私は『冷たいものは食べてませんね?』と尋ねると、異口同音に食べていませんと返事があります。そこで『まさかアイスクリームは食べてないでしょうね?』と質問を変えると、『えっ、アイスクリームを食べてはいけないんですか?』と身を乗り出す人が半分以上います」

重ねて、果物を食べているかと聞くと、たいてい食べていると答えが返ってくるという。冷え症がなければアイスクリームも果物も食べていいのだが。

「ここに来て、冷えてのぼせると言う人は100%冷たいものを食べています。私は何年もこうした訴えをする患者さんを診ていますから、体の中でどんなことが起きているかわかるんです。アイスクリームを食べるとどうなるか。0度近いものが胃袋に入ります。すると胃の温度が下がりますね」

人間は常に体温を一定に保つことで生命を維持しているわけだから、胃だけが冷たいままというわけにはいかない。

「体は胃の温度をもとに戻そうとします。そのためには血液を胃にしっかり循環させて温めるしかありません。ところが心臓から送り出された血液の3分の1は脳に行くことになっています。そうしないと脳貧血を起こして命に関わることになりますから」

血液の送り先で優先されるのが、冷えた胃と脳というわけだ。一方で、血液という「パイ」は限られているわけだから「体は足のほうへ流れる血の量を絞る」ことに。

「すると上半身は熱く感じ、下半身は冷えた状態になります。熱いからまた冷たいものを食べる。これが繰り返されると、体は胃を冷やされることを恐れ、冷たいものを食べていないときでも上半身を温めよう、温めようとするのです」

冷えのぼせが起きる、ひとつのパターンがこれだ。

症状がわかれば、漢方には対処法がある。

「私たちの診療の中心は、こうした患者さんの訴えを聞く問診です。そこには生活習慣や食習慣も含まれます。これらが漢方に取り組む医師にとっては宝の山なんです。

たとえば西洋医学では、更年期の諸症状を不定愁訴と呼んでいますね。しかし、漢方に不定愁訴という言い方はありません。私たちには、患者さんの自覚症状はすべて情報として価値があるのです。そこから解決の道筋をつけていくことは、推理小説で謎解きをしているようで楽しいですよ」

西洋医学的なアプローチでは手の打ちようがない場合でも、和漢診療科で解決する場合もある。

「漢方には西洋医学的に病名がつかない状態の人への対応も用意されています。また、診断はついたけれども治しようがない病気であっても、解決法が用意されています。私は市中の病院でも診察をしていますが、患者さんが訴える症状が解消されるという意味で、漢方は9割治せます。

残り1割の患者さんが、大学病院のようなところに来るのですが、そのうちの3割は治せます。残りの人は、症状が半分くらい軽減されるので続けたり、鍼灸などの理学療法を併用して快方に向かっていたりします。ですから、市中の病院も含めると、患者さんの満足度は95~98%くらいになると思います」

なぜ、9割以上治せるのか?

「具体的には、漢方薬を処方して治すわけですが、さっきも言ったとおり、私たちは患者さん一人ひとりの訴えを聞き、患者さんはどんな症状に苦しんでいるのか、どんな体質なのかをできるだけ詳しく知ろうとします。患者さんの症状や体質に関する情報の精度が上がれば、処方する漢方薬の精度も上がるからです」

だからといって、ただ漢方薬を飲んでいれば治るのかというと、そうはいかない。

「漢方薬だけだとよくて5割でしょう。さっきのアイスクリームの話ではありませんが、生活・食事習慣を直していくことも大切で、生活指導もしっかり行います」

「困ったときの和漢診療科頼み」というのは、患者を“まるごと診る”姿勢にあるのかもしれない。

【漢方が得意なこと、苦手なこと】

●得意なこと
病名がつかなくても、患者の訴えに、痛い、めまいがする、寒い、イライラするなどの症状が伴っていれば、それらの症状に対する対処法や処方が用意されている。

●苦手なこと
なぜその病気になったのか、原因を追求することは苦手。西洋医学で診断をつけ、治療がうまくいけばそのままでいいし、思わしくない場合に漢方というのも選択肢の一つ。

並木隆雄

お話を伺ったのは

並木隆雄 さん (なみき・たかお)

千葉大学医学部附属病院 和漢診療科科長

西洋医学的にアプローチが難しい症状や疾患に対し、患者の体質、病状を見極め、漢方薬(煎じ薬など)を中心に治療を行う。和漢診療科の受診にはかかりつけ医などの紹介状が必要。

『Dr.クロワッサン 不調が消える、ふだん漢方』(2020年1月28日発行)より。

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