からだ

そもそも漢方って? わかりやすく教えてください。

「漢方とは?」と尋ねられて、うまく答えられますか? 漢方という呼びかたは、日本で生まれたようなのです。えっ、じゃあ中国古来の医療は何なの? 中国の漢方専門大学で学び、日本の大学院で薬学の博士号をとった陳志清さんに答えてもらいました。
  • 文・一澤ひらり イラストレーション・宇和島太郎

症状に即して薬を処方、実践的な日本の漢方。

漢方は日本で独自に発展した医療で、漢字や漢文の由来と同じくその源をたどっていけば古代中国。5~6世紀頃、朝鮮半島経由で日本に伝来したと言われている。

「中国の伝統医学は中医学と呼ばれ、発祥はおよそ4000年も以前にさかのぼります。日本の漢方もこの中国医学が由来ですが、日本の気候や風土、日本人の体質などに合わせ応用させてきました。

江戸時代に西洋医学が伝来した時に西洋医学を『蘭方』、中国伝来の医学を『漢方』と呼ぶようになったんです。ですから中国には漢方という言いかたはなく、日本独自の名称なんですよ」

と、漢方の語源から説明してくれた薬学博士の陳志清さん。中医学と漢方とは考え方や診療、治療において異なる面はあるが、その大もとについて解説してもらった。

【中医学と漢方の違い】

●漢方
中国の伝統医学(中医学)と同じルーツだが、日本で独自に発展し、症状と処方が対をなすのが特徴。簡単にいえば、症状Aには処方Bで対応するという方法論をとる。

●中医学
陰陽五行説など、古代中国の哲学的な理論体系に基づいて症状や体質を分析し、処方に至る。発祥は約4000年前、紀元前後には基本的な枠組みができたといわれる。

「中医学には『黄帝内経』『神農本草経』『傷寒雑病論』という三大古典があります。『黄帝内経』は陰陽五行説の哲学的な思想や理論が基盤となっていて、これが中医学の原点です。

『神農本草経』は365種の生薬の薬効を解説した薬物書、『傷寒雑病論』はより実践的で113の処方があり、どんな時に使うのかが書かれた経験医学書です。日本の漢方はこの『傷寒雑病論』を継承した部分が多くあります。

その特徴はこの症状にはこの薬というように、症状と処方が対をなし、実用本位になっていることです。その意味で漢方はわかりやすいと言っていいと思います」

一方、中医学は「陰陽」「裏表」「寒熱」「虚実」などのさまざまな観点から心身の状態を見極めて、治療方法や処方を決めていく。

「中医学では、“人間の体は自然の一部”と考えます。西洋医学のように患部だけにスポットをあてるのではなく、体全体の状態のバランス、体質や生活習慣、食生活などを見直して整えていきます。その人が本来持っている自然治癒力を高めて、病気になりにくい体を作っていくのです」

【中国医学の三大古典】

●黄帝内経
中国最古の医学書とされる。「素問(そもん)」「霊枢(れいすう)」の2部から成り、黄帝と名医との問答の形で、医術と身体観を伝える。

●神農本草経
中国最古の本草(薬物)書。365種の薬物を上中下3類に分けて、それぞれの薬性や薬効などが記されている。

●傷寒雑病論
臨床医学の処方集。主に傷寒(急性熱性疾患)と雑病の症状と治療法を詳述。現在は傷寒論と金匱要略(きんきようりゃく)に分割。

さらに「未病」という、病気とまでは言えない不調にアプローチして未然に病気を防ぐ、「未病先防」に重きをおく。患者が訴える、イライラや不安といったデータでは示せない症状も治療の対象になる。また、食事、睡眠などを改善して生活を整える「養生」も重要視されている。

「『気血水』という言葉を聞いたことがあると思いますが、『気』は目に見えない生命エネルギー、『血』は血液や栄養分、『水』はリンパ液や体液など血液以外に体内に存在する水分のことで、いずれも体内をめぐっています。『気血水』が関連し合いながらバランスよく全身をめぐることで健康は保たれる、というのが基本理念です」

病は気から。病気も元気も「気」がすべて。

とりわけ生命力の源になるのは「気」。気が合う、気をつける、やる気がない、気が若いなど、「気」のつく言葉は数え切れないほど。

「『病は気から』と言うように、病気も元気もすべて気が根本です。中医学で気は哲学的で多次元的な意味を持ちます。自然界が成り立っている根源であり、人間の体を構成する基本要素のひとつでもある。気は動きながら体を守り、人間の成長を促します。ことに子どもの気は元気旺盛ですからね」

気が不足すると気力や体力が低下し、食欲や消化吸収力が減退する。気のめぐりが悪くなるとイライラや不眠など不定愁訴が出やすくなる。血、水も同様に、滞ったり過不足があると体にさまざまな不調を生じさせる。これを補ってくれるのが漢方薬(中医学では中薬(ちゅうやく)、中成薬(ちゅうせいやく)と呼ばれる)。

「大切なのは病気だけを診るのではなく、人を診ること。一人ひとりの体質に合わせて薬を処方するので、症状は同じでも人によって処方される薬が違ってきます」

漢方や中医学は自然のめぐりに順応して健やかに生きていくための知恵の集積。

「ふだんの暮らしの隅々に漢方を取り入れることで、健康を支える頼もしい手立てになってくれます」

陳 志清

お話を伺ったのは

陳 志清 さん (ちん・しせい)

薬学博士

イスクラ産業代表取締役副社長。1984年、南京中医薬大学卒業後、陜西中医薬大学大学院修了。2002年、広島大学大学院で薬学博士取得。日本中医薬研究会講師として中医学普及に務める。

『Dr.クロワッサン 不調が消える、ふだん漢方』(2020年1月28日発行)より。

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