すべてのカギを握る存在、“女性ホルモン”の基礎知識。【前編】
産婦人科医の対馬ルリ子さんと、美容家の吉川千明さんにお話を伺いました。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・山田久美子 イラストレーション・イオクサツキ 文・小沢緑子
女性ホルモンのしくみや働きについて知っておこう。
女性ホルモンは2つあり、異なる働きをしている。
吉川 女性ホルモンは卵巣から分泌される性ホルモンで、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つがありますよね。
対馬 そう。対して男性に多い男性ホルモンは精巣から分泌されています。勘違いされることが多いのですが、女性ホルモンは女性だけ、男性ホルモンは男性だけに分泌されているわけではないんですよ。男女ともわずかながら異性のホルモンも分泌されています。どちらのホルモンの材料もコレステロールです。
吉川 2つの女性ホルモンのうち、女性の肌や髪をつややかにしたり、気持ちを明るくさせるのはエストロゲンのほうですよね。
対馬 エストロゲンは女性らしい体を作るホルモンで、月経後、排卵に向けてたくさん分泌されます。自律神経を安定させるので、心も穏やかになります。脳を活性化させたり、しなやかで丈夫な骨を維持する働きも、エストロゲンの働きです。
吉川 もう一つのプロゲステロンは、妊娠に備える体作りをするためのホルモン。
対馬 プロゲステロンは排卵後、分泌量が増えていき、受精卵の着床を助けるために一生懸命、子宮の内膜をやわらかくしたり栄養を溜め込んで、体を〝守りモード〟に整えます。気分が内向きになったり体調が不安定になり、頭痛、腹痛、イライラ、便秘、さまざまな心身症状があらわれやすいのもこの時期ですね。
吉川 女性ホルモンの分泌量は年齢とともに落ちていくと思いますが、それはなぜですか?
対馬 卵巣に寿命が訪れるからなんです。女性は生まれたときに、卵巣に約200万個の卵胞を抱えているといわれます。その約200万個の卵は排卵で使っても使わなくても、卵巣内で自然に消えていきます。30代では5万〜6万個、40代では1万個以下に減り、50代になるとほぼゼロになる。卵巣内の卵が1000個を切ると月経がなくなるといわれています。これが卵巣の寿命で、すなわち閉経です。
吉川 卵巣が寿命を迎えると……。
対馬 もちろん女性ホルモンを作れないので、分泌量はほぼゼロ。
吉川 それまで分泌されていた女性ホルモンがなくなると、体はパニックを起こしてしまう。
対馬 60代くらいになると女性ホルモンが分泌されない状態に体も慣れてくるのですが、閉経前後は分泌量の急激な変動のせいで体や心が揺らいでしまいがちに。
吉川 それで、更年期特有のさまざまな症状があらわれるのですね。
対馬 女性ホルモンが作られなくなると、材料のコレステロールが体内で使われなくなるからコレステロール値は高くなるし、女性ホルモンによって守られていた皮膚、粘膜、関節、筋肉、胃腸、血管、脳機能、自律神経、免疫系なども弱くなります。排卵、月経回数が多すぎることで増えている子宮内膜症は放っておくと、心筋梗塞の発症につながるともいわれています。
吉川 今の若い世代にも知っておいてほしい情報ですね。
女性ホルモンの働き
年齢とともに卵巣の中の卵が減少
対馬 子宮内膜症は子宮の内膜がお腹の中にちらばり、卵巣など子宮以外の場所で出血を繰り返す病気です。結局あちこちで炎症が起こっている状態が続くので、それによって血管の炎症も引き起こされる。体内にわずかでも炎症があることで、病気や老化も進む原因になるんですよ。
吉川 卵巣から分泌される2つの女性ホルモンは、脳が司令塔になって分泌する量やタイミングをコントロールしているんですよね。
対馬 視床下部が指令を出すと、その下にある下垂体から2つの性腺刺激ホルモンが出されます。「卵胞刺激ホルモン(FSH)」がエストロゲンの分泌を促し、「黄体形成ホルモン(LH)」が排卵を促進。排卵後に卵胞を黄体に変化させるように働きかけるのです。
吉川 それぞれまた果たす役割が違うのですね。
子宮内膜症ができる場所
対馬ルリ子さん(つしま・るりこ)さん●産婦人科医。「女性ライフクリニック銀座・新宿」理事長。女性の心と体、社会との関わりを総合的にとらえた医療に取り組む。近著『プレ更年期1年生』。
吉川千明さん(よしかわ・ちあき)さん●美容家。植物美容の専門家。自然や植物の力に着目し、オーガニックコスメをはじめ、女性医療や漢方、食などにも精通。メノポーズカウンセラーでもある。
『クロワッサン』1006号より
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