『哲学する子どもたち バカロレアの国フランスの教育事情』中島さおりさん|本を読んで、会いたくなって。
自分で考える方法を学ぶのが中等教育です。
撮影・藤尾真琴
「子どもたちが学校から帰ってきて私に話してくれることが単純に面白かったんです。フランスの学校は日本と違うなって驚いたことをまとめたのがこの本です」
中島さおりさんはパリ第三大学博士準備過程を修了し、フランス人の夫と二人の子と共にパリ郊外に住んでいるが、小学校から大学院まで日本の学校に通った。
「子どもたちは小学校からフランスの学校に通っていて、姉はいま高校生で弟は中学生です」
小学校レベルの教育は明らかに日本のほうがよいと思っていた。
「フランスの学校は9月始まりで6月に終わるので、毎年7月に日本の小学校を3週間ほど体験させると、フランスにはない家庭科が楽しいようでした。施設が充実しているのが日本のよいところで、家庭科室、理科室、校庭、プール、体育館なんてものはフランスの都市の小学校にありません。算数の進み方も日本のほうが早い」
ところが中学、高校に進むと次第にフランスの教育のよいところが現れてくる。
「自分で考える子どもを育てる教育が中学、高校で重視されます。日本との大きな違いですね」
中学卒業試験の歴史の問題は全部、論述式だ。暗記だけでは合格点が取れない。日本の大学入試に相当する「バカロレア」(高校卒業=大学入学資格試験)では哲学する力が問われる。
「いくつか設問をメモしてきたんですが、哲学の試験では4時間かけて論述をします。例えば『芸術作品には必ず意味がなければならないか?』とか、『不可能を望むことは不条理であるか?』『自由とは何の障害もないということか?』『尊敬するためには愛さなければならないか?』などです」
同年代人口の約6割が哲学の試験を受け、こういう問題に自分で考えて答えを出す。受け売りでは合格できないという。
「最後の設問ならまず『尊敬』とは何か、『愛』とは何か、自分の言葉で言い換えることから論述を始めます。そういう方法を身につけるのがフランスの中等教育の目的なんですね。フランスでは未成年の喫煙や飲酒が禁止されていませんし、制服もありませんし、お化粧はし放題ですから、風紀の締め付けは日本に比べて驚くほどゆるい。授業中にガムを噛んでも注意されません。日本との違い自体が面白いですし、もしかしたら大学入試のあり方など、日本の学校教育を考える上で役に立つところもあるのではないかと思います」
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