天才コメディエンヌ! 斉藤由貴の傑作青春映画。│ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
不思議な魅力で人を惹きつける、アイドルと呼ばれる特別な生き物。旬の若手スターを起用したアイドル映画は毎年のように量産されますが、時たまとんでもない逸品が紛れ込んでいることがあります。
斉藤由貴がデビュー2年目の1986年(昭和61年)に主演した『恋する女たち』は、大森一樹監督による氷室冴子作品の映像化。思春期の女の子らしい一人称が炸裂した、おしゃべりな語り口がそのまま脚本に移し替えられ、斉藤由貴が見事に体現することで、アイドル映画の傑作が誕生しました。
金沢の高校に通う多佳子(斉藤由貴)は、親友の緑子(高井麻巳子)と汀子(相楽晴子)に触発され、恋というものについて概念的な考えをめぐらせる。野球部の勝(柳葉敏郎)をつい目で追ってしまうけれど、これって恋なのか? 頭でっかちで生真面目なヒロインの成長が溌剌としたテンポで活写されます。
この映画、なんといっても素晴らしいのが、斉藤由貴の名コメディエンヌぶりです。本人はいたって真剣なのに、どこかとぼけた味が出る、天性の笑いのセンス。同じく天才コメディエンヌの小林聡美との掛け合いは、まるで頂上決戦を見ているかのよう…。万に一人の美少女であるだけでなく、演技も歌声も絶品とあって、この頃の斉藤由貴は神がかっているとしか言いようがありません。それにしても、主演2作目にしてこんなに自分を発揮できる作品に出会えるとは、どれだけ強運の持ち主なんだろう。いやもしかしたら、本物のアイドルとはその存在によって、作品を呼び寄せ、クリエイターの真価を引き出すのかもしれない、とまで思えてきます。
’80年代という時代が持つ幸福感と、少女小説にしかないまっすぐな明るさが調和し、すべての瞬間がきらきらしている…。斉藤由貴が歌う主題歌『MAY』が最大のカタルシス効果をあげるラストシーンに、ついつい観ているこっちまで青春を謳歌し、成長した達成感に満たされるのでした。
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。
『クロワッサン』1000号より