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【紫原明子のお悩み相談】不潔な犬がいる彼の家に行けません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>
共通の友達から紹介された1歳年上の会社員とお付き合いをしていました。私は都内、彼は神奈川、週末は私が1時間かけて通っていました。

バツイチの彼が6年前から一緒に暮らすのは、15歳の息子と8歳のミニチュアダックス1匹。男の2人暮らしにしては整理整頓されていて綺麗にしているのですが、犬が不潔なんです。

足裏の毛をカットさせてくれないため、尿をすると足にべっとり、そのままフローリングの上を走り、ソファに飛び乗ります。トイレから少しずれた場所に糞尿をしてしまい、ゲージの中も強いアンモニア臭。

仕事が多忙な中、週末に彼の家に行っても汚い犬が寝ているソファーに座れないため疲れがとれず。やがて1年が過ぎ、4月は月の半分が出張となり、さすがに彼の家に行くことはしんどく、多忙を理由に行かなくなってしまいました。賃貸マンションの更新も重なったのですが、彼の力を一切借りず引っ越しをしました。

新居の居心地の良さもあり、さらに彼の元に行くことから遠ざかり、私からはパタリと連絡をしなくなりましたが、彼からも何もアクションがありません。

そして2ヶ月がたち、今後、どうしていきたいか話し合いをすべきと思うのですが、なかなか連絡に踏み切れません。いい年して自然消滅もいかがなものかと思います。 ご意見いただけると幸いです。 よろしくお願いいたします。
(相談者:みるきー/大手外資系企業の人事部、44歳独身です。)

紫原明子さんの回答

みるきーさん、こんにちは。
お悩みを伺ってひとつどうしても不思議だったのが、みるきーさんは、何が良くてその方とお付き合いされていたのだろう? ということです。この人にしかわかってもらえない話があるとか、この人とのセックスが最高とか、そこまで特別でなくとも、いないよりはいたほうが安心するとか、寂しさを紛らわせるとか。誰かと付き合うまでには大抵、そうなるに至る何かしらの理由が大なり小なりあるものだと思うんですが、いただいたご相談を拝見する限りでは、どうもそれが見えてきません。

 自然消滅の可能性にも触れていらっしゃいますが、実際、2ヶ月間、示し合わせたわけでもなく、お互いに連絡を取らないという事実が、どうもお二人の関係性を象徴しているような、そんな気がしないでもありません。つまり、今はそれほど、お互いにお互いを必要としていなかった、ということではないでしょうか。

もちろん、彼との関係に少しでも未練やその先を望む欲があれば話し合いをしてもいいと思います。また、後々火種になりそうな、解決しそびれた問題などあれば、やはり話し合いをされたほうが良いと思います。ただ、今回いただいた内容からでは、何となくお二人の熱量は、そう高くないところで一致していそうなので、このまま自然に終わるのであれば、それでも良いのではないかとも思います。

“いい年して自然消滅もいかがなものか”と書いてくださっていますが、私の観測範囲では、歳を重ね、大人になればなるほど、きちんと始まってきちんと終わらない、むしろ曖昧に始まって曖昧に終わる恋が増えているという印象です。付き合うとか付き合わないとかいう話をする前にセックスしてたり、その流れで何となく付き合ったことになったり、ならなかったり、別れ話も早々にLINEをブロックしたり、失踪、というパターンもたまにありますね……。

大人のずるさのように聞こえるけれども、そもそも誰かを大切に思う気持ち、好きだな、と思う気持ちは、明確にここから始まり、ここまでで終わり、なんてものばかりとは限りません。知性や忍耐を育み、曖昧さを曖昧なままに受け止められるようになった大人だからこそ、付き合います、やめます、という形式的な取り決めの必要ない恋愛を楽しむことができるのかもしれません(……と言えるほど小粋なケースが並ばないことだけが非常に残念ですが)。

ところで、いただいたお悩みとは関係のないところでひとつだけ気になるのが、彼の家の犬のことです。犬をしつけて衛生的に飼うには、毎日の根気強い関わりとそれができる程度に余裕のある生活が不可欠なんですよね。お客さんが来る日だけ部屋を綺麗にすることはできるけれど、犬のしつけというのはその日だけうまくやることができません。うちにも犬が一匹います。前夫と別居してから飼い始めたんですが、親子3人の暮らしに最適な家に引っ越しをして、混乱した状態から生活を立て直すまでは、トイレトレーニングがまったくと言って良いほどうまくいきませんでした。

だから、決して邪推がよくないことは重々承知しつつ、もしかするとみるきーさんが週末に垣間見ていた、彼と息子さんの一見ちゃんとした生活というのは、ある種、よそ行きとして取り繕われていたものだったのではないか……みるきーさんのいない平日には、それとはまた全然違う、二人の本来の生活が展開されていたのではないか……そんなことを、ふと考えてしまいました。

もちろん、だからといって、彼らの暮らしを気にかけてあげてくださいなどと言いたいわけではありません。みるきーさんは、みるきーさんの快適な暮らしを守ることが一番だと思いますし、もしかしたら彼が連絡してこないのだって、何かしらそういうところに遠慮があったのかもしれません。

そもそもみるきーさんは、今、パートナーを必要とされていらっしゃるのでしょうか。一人で難なく引っ越しもできる、仕事も忙しくて、新しい家も快適ということであれば、実際のところ、恋人はそれほど必要とされていないのではないでしょうか?

今回の彼はお友達の紹介とのこと。もしかしたら、周りの人がよかれと思って誰かを紹介してくれたり、今は一人で良くても将来寂しいよ、なんて言ってくれたりするんでしょうか(邪推に次ぐ邪推ですみません)。

いつか必要になったときのために、今は必要ないけれども予め関係を築いておく、保険として、パートナーシップを築いておくというのは、どうにも維持コストが大きすぎるような気もします。何しろ人間関係の維持には時間とお金と体力を必要とします。今、日常に大きく欠けているものが、恋人でなければ埋められないわけでもないのであれば、無理して誰かと関係を育もうとせず、むしろ保険という意味ではお金を貯めておく、そのくらいで十分じゃないでしょうか。

何せこれから先、離婚も非婚もどんどん増えて、一旦パートナーのいる世界に行った人でも、私のようにひょっこりまたシングルの世界に戻ってきたりします。どんどん相手が減っていくように見せかけて、いずれきっとまたじわじわ戻ってきます。ですから、仮にもし妊娠を望まれる場合には別ですが、そうでないのであれば、いたずらに関係性の構築を急がず焦らず、ご自身の快適な暮らしの維持を優先されて良いのではないかと、僭越ながらそんな風に思いました。

イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ
イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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