ホームズを実在の人物として、その事跡を年代記にまとめる研究が欧米で盛んだ。同じように明智小五郎の年代記を作成したら……今から30年ほど前、大学生だった平山さんは夏休みに集中して年代記を編んで、同人誌に発表した。現在『明智小五郎事件簿』全12巻(集英社文庫)が年代順に事件を配列しているのは、この平山さんの研究が元になっている。
「一高で明智小五郎の1年上には芥川龍之介や菊池寛、久米正雄といった『新思潮』の錚々たる面々がいました。明智小五郎が育った時代背景がわかると、推理小説の楽しみが増すでしょう?」
架空のノンフィクションのように、後の文豪と袖振り合う明智の学生時代のエピソードを読むのが楽しい。団子坂で起きた密室殺人の謎を明晰な頭脳で解き、その縁で乱歩と知り合った(後に乱歩が『D坂の殺人事件』として発表)あたりから、皆が知る明智小五郎の知られざる面が語られる。
「あのシャーロック・ホームズとも関わり合いますし、怪人フー・マンチュー博士も出てきますし、ちょっとやりすぎですね(笑)。でも、名探偵や怪人が活躍する時代は過ぎ去り、科学捜査の世の中に変わったというのが晩年の明智の考えなんです。昭和30年代、孤独に闇を抱えて過ごしています」