子どものころから好きだった編み物を仕事に──私がハンドメイド作家になるまで
撮影・小笠原真紀 文・保手濱奈美
翻訳家 → あみぐるみ作家 せきもとともこさん
私らしく広げる3つの工夫
●「クスッと笑える」ユニークな世界観。
● ネットだけに頼らない、お店や対面でファン作り。
● 年に一度のお楽しみ、クリスマス限定通販。
毛糸を立体的に編み上げ、動物など多様な形のアイテムを作る「編みぐるみ」。ニット作家のせきもとともこさんと編みぐるみの出合いは小学生のころ。
「母の影響で子どものころから編み物が好きだったんです。当時、ヤクルトの空き容器の周りを毛糸で編み上げて、犬を作るのが流行っていたんですけど、それが今につながる編みぐるみの原体験でした」
時を経て40代。しばらく途絶えていた編み物熱が再燃。
「長年、英文マニュアルを翻訳する仕事をしていましたが、翻訳ツールの発展によりその依頼が徐々に減り、空いた時間にまた編みぐるみを作ってみたいという気持ちに。最初は、趣味でたくさん作ったものを、友だちや近所の子どもたちにあげていたんです。そんなある日、自作の猫のブローチをつけて近所のカフェを訪れたところ、そこのオーナーさんが『そのかわいいブローチを店で販売させてもらえませんか?』と声をかけてくださって……」
趣味から作家への第一歩を踏み出すきっかけは、こんな運命的な縁から始まった。
せきもとさんの作品は、「クスッと笑えて、ちょっと憎たらしい表情にするのがポイント」とのことで、不敵な笑みを浮かべた動物など唯一無二の味わい深さ。人目を引きつけるのも納得だ。次第に、近所の小鳥ショップからも、「販売用に小鳥のブローチを作ってほしい」と依頼されるようになった。
「ただ、カフェでも小鳥屋さんでも、売れ行きは芳しくなく(笑)。転機になったのは、箱根の『ナラヤカフェ』さんと都内の大型カフェから、ほぼ同時期に個展のお誘いをいただいたこと。編みぐるみの販売を始めて、3年ほど経ったころでした」
ファンがファンを呼び、数珠繋ぎに機会が広がる
ギャラリーが併設されているナラヤカフェでは、その少し前から作品の委託販売を開始。きっかけは、カフェのオーナーが、せきもとさんの猫のブローチをつけてナラヤカフェを訪れた時のこと。店のスタッフがブローチに興味を示したことから、付き合いが始まった。またも猫のブローチが運んできた縁! 後者の大型カフェは、インスタグラムでの作品投稿をきっかけに、編み物イベントの講師として声をかけられたことから、個展につながった。
「それまではブローチや人形といった小さなものしか作っていませんでしたが、個展をやるには少し寂しいかもということで、大きめの額装の作品「名画シリーズ」を作ることに。この反響もあってか、その後は、さまざまなショップや施設の方から、個展や展示会のお誘いをいただくようになりました」
こうした縁でつながった店への委託や、展示会で作品を販売。対面での販売に軸足を置き、一つひとつの出会いを大切に、念願だったアトリエも構えて、作品づくりを楽しんでいた。そんななか50代になり、仕事に対する意識が変わる出来事が。
「夫が病気を患い、一時期入院していたことがあったんです。それまでニットの仕事は夫の扶養内で行っていましたが、私も生活を支えられるようにと自立を決意。お声かけいただいた仕事に真摯に応えるのはもちろん、より多くの人に自分の作品を知ってもらえたらと、能動的なアクションも起こすようになりました」
海外での出展など新たな活動にも挑戦
その一環として、11月に台湾で行われる大規模なクラフト展示会にエントリー。審査に通って出展が決定した。現在、せきもとさんの販路は、展示会と通販サイト「BASE」でのクリスマス限定販売という2本柱。クリスマス用の赤い服を着た編みぐるみは、ファンに人気。ほかにも、今年はアーティストや洋服ブランドとコラボ展示会を行ったり、来年には初の著書の出版が控えていたりと、仕事の幅を広げている。
「子どものころから好きだった編み物が仕事になるなんて。一日中編んでいても飽きることなく、むしろ楽しくて仕方ありません。アトリエではワークショップを開いたり、展示会ではお客さんやほかの作家さんと交流したり、この仕事をしているからこその出会いもある。それに新しい挑戦も、緊張はありますが、好きなことだから楽しめます」
『クロワッサン』1176号より
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