手指の変形やこわばり、痺れや痛み。 更年期世代特有の悩みを軽減する方法
イラストレーション・髙橋マサエ 文・オカモトノブコ
更年期を境に、手指がむくんだり、しびれて力が入らず、よく物を落とすようになった……という声を聞く。
「更年期以降にあらわれるこうした不調は、女性ホルモンのエストロゲンが減少することによる影響が大きな原因。ただしホットフラッシュなどほかの更年期症状がより深刻だと、手指の不調は二の次になりやすい傾向が。そのため、これらの自律神経症状が落ち着いた後、気づけば重症化しているケースも多く見られます」
こう話すのは、女性の手指や腕を専門に多くの診療を行う牛尾茂子さん。複数の症状を同時に抱えるケースも多いという。ただし「もう歳だから」などと、放置するのは禁物だ。
「ちょっとした痛みやピリピリするようなしびれ、違和感を持った初期の段階で早めに対処することが重要。適切なケアや治療を行えば、日常生活に支障をきたす前に進行を抑えることができます。受診する際は、日本手外科学会のホームページ(https://www.jssh.or.jp)で専門医を探してみるといいでしょう」
手根管症候群
親指~薬指の半分にしびれが生じ、急性期は夜中や明け方にチリチリした強い痛みが出やすい。進行すると親指の腹の筋肉が萎縮し、親指と他の指で物をつまむ「対立運動」が困難に。
【原因】
手首にあるトンネル状の「手根管」や、その中を通って指につながる腱の滑膜、これらを覆う靭帯が腫れて内腔が狭くなり、ここを走行する神経を圧迫。血流障害を引き起こし、しびれや痛みが発生する。
【治療法】
初期の段階ではビタミンB12の内服や、夜間に手首を固定する保存療法でよくなることも多い。改善しなければ手根管を切り開く手術や、症状が進行すると親指の動きを取り戻す「母指対立再建術」も選択肢に。
ブシャール結節
指の第2関節に起こる変形性関節症。利き手でない指にもランダムに発生する。曲げると痛み、進行すると関節が小指側に倒れる、こぶ(結節)ができるなどの症状があらわれる。
【原因】
指の第2関節で、関節を包む被膜組織が腫れて動きが悪くなり、関節への負担がかかる。やがて軟骨がすり減り、痛みだけでなく骨そのものが変形してこぶ(結節)のような見た目になることも。
【治療法】
熱を持った痛みには細く切った冷湿布を関節に巻き、上からテープで固定を。薬物療法は痛み止めのほか、炎症により増殖した毛細血管の血流を間引く薬が使用される。日常的にはテーピングも有効。
ばね指
初期は朝の起き抜けに多く発生。指の付け根(MP関節)が曲がったまま伸ばしづらくなり、腱が引っかかって弾かれるような、ぎこちない動きになって痛みを伴う。特に親指でなりやすい。
【原因】
指の付け根にあるMP関節の甲側で、腱の滑りをよくする滑膜が腫れて起きる。すると腱が通り抜ける腱鞘の内部が狭くなり、腫れた腱が通過する際にポコンポコンと引っかかるような状態に。進行すると安静時にも痛みが出るようになる。
【治療法】
サポーターでの固定が第一歩。痛みが強い場合はステロイド注射での処置を行うが、2回ほど打って改善しなければ腱鞘を切り開いて、腱の通りをよくする手術も選択肢に。
母指CM関節症
物をつまんだり、ひねったりするときに親指の付け根に痛みが生じる。特にペットボトルのふたを開ける、ドアノブをひねる、布巾を絞るなど「つかんでひねる」動作で痛みが多く発生。
【原因】
親指の付け根にあるCM関節が腫れて発生。進行すると軟骨がすり減って骨がずれ、やがて周囲の関節も変形に至る。
【治療法】
痛みに対してはサポーターなどでの固定が第一選択肢。ステロイド注射も用いられるが効く期間は限定的だ。進行した症状には手術も検討され、近年では人工腱を使った「関節形成術」などさまざまな術式がある。術後は一定の固定期間が必要だが、痛みが取れて生活の質の大幅な改善が期待できる。
ヘバーデン結節
ブシャール結節が指の第2関節で起こるのに対し、こちらは第1関節に起きる変形性関節症。曲げると痛むのは同様で、水疱状の膨らみが生じることも。
【原因】
ブシャール結節と原因は同様で、指の第1関節に発症。関節を包む「関節包」がパンパンに腫れ、曲げると痛んだり、細かい手作業が困難になる。進行すると関節のズレや骨の変形、水疱などができるケースも。
【治療法】
ブシャール結節と基本的には同じで、炎症で痛む場合は冷湿布を使用し、薬物療法も選択肢に。炎症がおさまっても曲げると痛い場合はテーピング(P.75)などで動きを制限し、関節への負担を軽減させる。
ドケルバン病
親指を広げたり、動かすことで付け根に痛みが発生。母指CM関節症と間違いやすいが、親指を中に握って手首を小指側に倒すセルフチェックを行い、強い痛みが走ることで判別できる。
【原因】
手首の親指側にある腱鞘や、その中を通過する腱に炎症が発生。内部が狭くなって腱の動きが妨げられ、痛みが生じる。産後の手の不調に多く見られる腱鞘炎でもある。
【治療法】
まずはサポーターでの固定が行われる。強い痛みに対してはステロイド注射を行うが、2回ほどの処置で改善しない場合は、腱鞘を切り開いて腱の通りをよくする手術もある。比較的シンプルな術式で、局所麻酔・日帰りでの手術が可能。
産後の手指の不調との関係性
産後に手指の不調があった人は、更年期にも症状が出る予備軍という。
「出産時に胎盤が排出されるとエストロゲンが一時的に激減。そこへ赤ちゃんの抱っこなど手の酷使が加わり、腱鞘炎などを発症します。これは授乳期が終わってホルモンバランスが元に戻れば回復しますが、エストロゲンが減る一方の更年期の場合、自然に治りはしません。産後に不調があった人はほぼ確実に症状が出るため、放置しないように注意を」
手指の不調が出やすい人の特徴
更年期以降にエストロゲンが減少することに加えて、手指の不調を引き起こす原因はあるのだろうか?
「まず、手を酷使すること。昔は家事の負担が大きく関係しましたが、現代では長時間のパソコンやスマホの使用による影響が大。スマホの普及当時、更年期女性の患者さんが急増したという報告もあります。さらに喫煙やアルコールの多量摂取など、女性ホルモンを乱して血流を悪化させる習慣も大きなリスク要因に」
手指の不調とどう向き合うか
ホットフラッシュや精神的な自律神経症状は、更年期を抜ければ落ち着くもの。けれど手指の組織を健康に保つのに必要なエストロゲンはその後も低値で安定するため、その症状は更年期後もずっと続いていく。
「痛みを我慢したり、痛みへの耐性が強い人は、いつの間にか進行して悪化するケースも。残念ながら一度発症すると完治はしませんが、早期に適切な治療やケアを行うほど、進行を抑える効果が期待できます」
『クロワッサン』1175号より
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