【俳優・二階堂ふみさんと映画監督・西川美和さんに聞いた】戦後すべてを棄てて生きた勇気と一筋の希望の物語──映画『わたしの知らない子どもたち』
撮影・シム・ギュテ スタイリング・髙山エリ(二階堂さん) ヘア&メイク・渡嘉敷愛子(二階堂さん)、西澤亜沙美(西川さん) 文・兵藤育子
右・西川美和(にしかわ・みわ)さん 広島県出身。2002年、平凡な一家の転覆劇を描いた『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビュー。主な監督作に『ゆれる』『永い言い訳』『すばらしき世界』など。エッセイに『映画にまつわるXについて』『遠きにありて』など
戦後、家や家族を失い、街に放り出された名もなき子どもたちに光を当てた、西川美和監督の最新作。主人公は長い髪を切り、親からもらった名前を変え、少年として生きる道を選択する少女・琴子。二階堂ふみさんが演じるのは、やはり敗戦ですべてを手放す、曽根という教師だ。
西川美和さん 戦後の写真資料には男の子の姿が多く、女の子はどこへ行ったのだろうと思っていました。一方で女の子もかっぱらいをしていたとか、施設で服を脱がせて初めて性別がわかったという記述もあって。少女が生きのびようとした時にどんな苦境があっただろうという想像から、脚本を書き始めました。
二階堂ふみさん 脚本を読んで、子どもの視点で描かれた戦後に衝撃を受けました。大人になった自分が読むと、過去に持っていた感覚とリンクするところがあったり、でも大人だから見ないようにしていることも突きつけられて。自分の弱さとも向き合うような作品だと思いました。
西川 二階堂さんの“私”がある感じは琴子っぽいなと、書きながら思っていました(笑)。最初は曽根を軸にする発想はなかったのですが、もの言わぬ子どもたちを見棄てた大人の後悔や気持ちのゆれが気になって。戦時中は全体主義へ誘導していたのに、戦後180度態度を変えてしまう曽根を、観る人にとっての語り部にしようと思ったのです。
琴子を演じたのは、撮影当時12歳の小八重葵美(こやえあみ)さん。音楽が大好きで快活だった少女が、大人に不信感を抱きながら、仲間たちにも性別を偽って生き抜こうとする様は鮮烈だ。
二階堂 葵美ちゃんはまっすぐな目が怖いくらい(笑)。セリフなのに発する言葉に真実味があって、とても魅力的でした。
西川 葵美ちゃんは準備することが本当に多かったんです。ピアノの練習をしつつシケモクも巻かなきゃいけないし、掴み合いのアクションもある。だけど成長に前向きでセンスも抜群なので、大人の俳優とあまり変わらず接することができました。
二階堂 とあるシーンが終わったとき、葵美ちゃんをつい抱きしめてしまったのですが、小さな声で「抱きしめてくれてありがとうございます」と言ってくれて。役の関係性としてずっと線を引いていたのですが、早く会いたい、抱きしめたいという気持ちが溢れた瞬間でした。完成した映画を観終わった後は、目に入る現代の街の風景と、そこを駆け回る孤児たちが重なるようでした。
西川 戦争がテーマとはいえ重いだけの映画ではなく、子どもたちのきらめきや明るい方向につながる希望も感じていただけると思います。
『わたしの知らない子どもたち』
かたや性別を、かたや女性としての尊厳を手放さなければ生きていけなかった琴子と曽根。かつて生徒と教師だったふたりの女性を主人公に描く、知られざる戦後の物語。
10月16日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国公開。
『クロワッサン』1175号より
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