帯染色家・荒木節子さんの着物の時間──同じようには染まらない。そこが手染めの魅力だと思います
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・木挽町 ごとう
染色でよく使うのは茶、緑、青。 あっ、今日の組み合わせもそうですね
色と色が重なり合うことで生まれる新たな色の新鮮さ、そして奥深さ。それを感じさせてくれるのが、帯染色家・荒木節子さんが作り出す帯だ。一見、抽象画のようにも見える帯は、着物と出合うことで、互いをさらに引き立て合う。
「帯1本をタブロー(絵画)のようにとらえ、全体の調和を大切にしています。どの色をどこにするかで、印象は変わってしまいますから。色にはそれぞれ個性があるので、それを踏まえて染色をしています。重なり合った部分から生み出された新しい色を見るのが楽しみのひとつですね」
今回、荒木さんが締めたのは、茶色をベースに、お太鼓と前部分をミントグリーンに染め、そこに階段状の模様を配した自作の名古屋帯。合わせた茶の紬によく映える。
「均一に見える模様ですが、形状も色のかすれ具合も少しずつ違うんですよ」
と言う荒木さんだが、最初から染色家を目指していたわけではない。帯染色に関わり、作家として作品を制作するようになったのは50歳を目前にしたころだ。
「大学卒業後、縁があり写真家の中村正也さんの事務所で働くことに。カメラマンのアシスタントではなく、なんでも係。ロケの準備、イメージに合うアクセサリーや小道具集めなど、今で言うところのスタイリストのような仕事をしていました」
そこで13年間働いた荒木さん。このときに出合った2人の人物から大きな影響を受けた。
「大人のためのカジュアルシューズを手がけた『KISSA』の創設者、高田喜佐さんと若者文化を独特の感性で表したイラストレーターの大橋歩さんです。女性が仕事をし、自己を確立していく大切さを教えてくれました。おふたりと話をするにつけ、私はこのままでいいのだろうか?と悩みました」
その当時、高田喜佐さんや大橋歩さんは着物を着ることが多かった。伝統的な柄や色に縛られないふたりの着こなしは新鮮で、こんなふうに着物を着たい、と思うようになる。
「そういえば着物好きの友人たちが『私たちが着たい着物がないのよ』と話していたのを思い出し、それならば私が作ろうと……。知り合いが丹後縮緬の取次をしていたので、B反の白生地を色指定して染めてもらったところ友人たちにも好評で。そんなある日、帯揚げの白生地が手違いで届いてしまいまして。返却せずに自分で染めたらおもしろくって」
染めに目覚めた荒木さんは離職し、絞り染め作家・安藤宏子さんに3年間師事する。勉強するうちに、テキスタイルにも興味が湧き、当時の大塚テキスタイルデザイン専門学校夜間部で染めと織りを学び始める。
「ここでの勉強が私の方向性を決定してくれたように思います。和の中に西洋のニュアンスを取り入れることで生じるおもしろさ、色と色が重なり合い作り出す世界……。そこに染めの可能性を感じてしまったんです」
同じようには決してならない。そこが手染めの魅力であると。
「私の故郷は和歌山県新宮市で自然が豊かな所。海、空、風、光や大地、自然界の色は本当に美しい。それを色に託して表現したいと思っています。染色が好きなんですよ。この“好き”をずっと持ち続け、自分の世界を作り出したいですね」
『クロワッサン』1175号より
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