『三鬼』小林恭ニ 著──あの天才俳人のとんでもない運命
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
学生時代、小林恭二の小説に夢中になった。ユーモアと風刺と知性と想像力が詰まった作品世界が大好きだった。本書は17年ぶりの小説作品。俳句もたしなむ著者による俳人・西東三鬼(さいとうさんき)の物語だ。
学校卒業後シンガポールで歯科医を開業するも現地での反日の気配の高まりで帰国、その後伝統的な形式を無視した俳句で注目された三鬼。1940年、俳句誌「京大俳句」の仲間たちが特高に検挙され、彼にも複数の国家機関からマークがつく。そんな時期にダンスホールで再会したのはシンガポール時代に世話になった老人の孫娘、市子。めぐりめぐって彼は市子とともに、再びシンガポールへ。
私は小林恭二の著作と知れば帯も確認せずに自動的に購入しページをめくる体質なので、最初は純粋な評伝だと思っていたのだが、どんどん話が大きくなることに驚き、のめりこんだ。改めて帯を見れば、「史実とフィクションを融合させた、ノンストップ・歴史エンターテインメント!」とある。
当時の世界情勢、句界の状況や、三鬼の句の解釈なども盛り込まれるなか、不穏な時代を駆け巡る三鬼の姿が活写されていく。これこれ! じつに17年間、私はこれを待ってました!
『クロワッサン』1175号より
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