好きなもの得意なこと、これからも。自分らしく、地域の中で生きていく──「オレンジサロン 石蔵カフェ」
撮影・黒川ひろみ 文・板倉みきこ
自分のことばで語りたい、世の中の役に立つ存在でありたい。 人のその願いに、認知症かどうかの違いはありません
栃木・宇都宮 『オレンジサロン 石蔵カフェ』
栃木県宇都宮市、鬼怒川にほど近い認知症カフェ『オレンジサロン 石蔵カフェ』。その名のとおり、地元産の大谷石で造られた堂々たる石蔵を利用した、居心地のいい空間が魅力だ。建物の周囲は、ボランティアの人が丹精込めて育てている様々な草花が彩る……。
「ただいま〜!」と明るい声をあげて敷地に入ってきたのは、12年前にMCI(軽度認知障害)と認定された82歳の知惠子さん。最近、一人暮らしを断念し、ケアハウスに入ったばかりだけれど「ここが一番居心地がいいから、家に帰ってくる気分なの」と足繁く通う。
カラダを使って歌うと、脳へのいい刺激になります
認知症カフェとは、「認知症の人、家族、地域住民、専門職が対等な立場で場を共有する」というコンセプトで始まった、行政も後押しするプロジェクト。現在全国に8,000カ所ほどある中、国内で最も早く立ち上がったひとつで、象徴的存在として知られるのが、金澤林子さんが代表を務める『オレンジサロン 石蔵カフェ』なのだ。できたきっかけは十数年前。当事者や介護する家族が、仲間を作ったり、言いたいことを言える場として運営していたサロンでの出来事だった。
「若年性の認知症の方が『僕は認知症だけど、まだまだ人の役に立つことができると思うし、役に立ちたい。だからカフェをやってみたい』と。何度も私に話してくれたので、その気持ちをなんとか形にしたいと決心しました」
彼ができることを理想の形に繋げるべく、家族会の仲間とともに試行錯誤し、2014年にスタートさせた。
「最初はお茶とケーキくらいでしたが、ボランティアの調理スタッフも増えてランチも出すようになり、野菜やお米の寄付をしてくれる農家さんが現れ、地域との繋がりも広がっていきました」
ランチを担当するのは料理好きの主婦など。これまで自慢の腕を外で振るう場がなく、「美味しいと言ってもらえると励みになる」と、認知症当事者以外の生きがいも生み出している。当事者たちはカフェの運営に参加し、接客や飲み物を出すなど、自分ができることをできる範囲で楽しむ。
「当事者には人に頼られることのうれしさがあるだろうし、楽しそうに接客する姿を見て、家族にも安心感を与えているのではないかな、と思います」
当事者にも、家族にとっても必要な場所や時間がある
現在、カフェ以外にも当事者が集まるサロンを定期的に開催。本人を送迎はしてもらうが、基本家族は参加しない。
「『私たちもハッチャケたい! 好きなことをやりたい!』との当事者の言葉から始まったサロンですから。家族と四六時中いると、本人のやれることを制限してしまうこともありますよね。一方で、介護をする家族にも、この時間は自由な自分時間を持ってほしいなって。介護にはホッとできる場や、情報を共有する仲間も必要なんですよね」
家族が息抜きをできるよう夜にバーを開いたり、介護する男性のための料理教室を開くこともあった。
地域の人が提供する食材を活かした献立が好評!
「一番大切なのは、認知症の症状だけを見ずにその人の個性と向き合うこと。生き方や人生を尊重し、相手がうれしいという思いを引き出し、感情を耕すこと。難しい学説はわからないけど、脳への良い影響は絶大だと思いますよ」
サロン参加者の60代ののりっぺさん、感情が沈んでいる時に金澤さんが彼女の孫の話をすると笑顔に変わる。気持ちが落ち着くのが一目瞭然だった。
「その人らしくいられる時間や場所はどうしたら作れるか。今後も模索し、いろいろな形で提供していくつもりです」
人それぞれのペースを尊重しながら会話します
オレンジサロン 石蔵カフェ
栃木県宇都宮市道場宿町1131
カフェは第2木曜日、第3日曜に開催。
詳細は「宇都宮市医師会認知症あんしんホームページ」で確認を。
https://u-carenet.jp/dementia
『クロワッサン』1174号より
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