【俳優・川口春奈さんに聞いた】ひとりの女性が生き抜く姿。その勇敢さに心を動かされて──映画『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』
撮影・シム・ギュテ スタイリング・緒方なぎさ ヘア&メイク・高村三花子 文・長嶺葉月
24歳でこの世を去った遠藤和のどかさんが、亡くなる10日前までつづった手記をもとにした映画『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』。和さんを演じることに川口春奈さんは大きな覚悟を必要とした。
「実話ですし、闘病されて、最後には亡くなるという結末もわかっています。演じるとなれば心も削られるだろうし、大変な撮影になることは想像できたので、『やります』と言うまでには覚悟が必要でしたし、時間がかかりました」
引き受けたからには、実在した和さんにできる限り誠実に向き合いたい。日記や残された映像などを頼りに、その人柄を追い求めた。
「三姉妹の長女で、面倒見がよくて責任感が強い。頑固な一面もあったのかなと思います。でも、(夫の)将一さんの前では可愛らしくて、恋にのめり込むところもあって、本当にごく普通の女の子なんです。一方で、突然病気がわかり、治療をしながら子どもを産み、若くして濃密な人生を戦い抜いた。その勇敢さも、和さんという人をかたちづくる大切な要素」
撮影には、抗がん剤治療を経験した人たちも参加し、想像だけでは知り得ない生の声にも触れた。
「副作用は想像を絶するものだと聞きました。薬を見るだけで吐き気がするくらいなのに、それを体に入れなくてはいけない……。私が思っていた何十倍もの負荷が心身にかかっているんだと知りました」
だからこそ、“わかったつもり”で演じたくはなかった。撮影前から監督と対話を重ね、現場でも一つひとつの言葉に立ち止まった。
「セリフであっても、実際の和さんの言葉だからこそ、その気持ちに少しでも辿り着けなければ、言葉にはできませんでした。何度も監督に相談して、どういう思いから出た言葉なのか、自分なりに腑に落ちるところまで探り続けなければ、と」
家族や夫婦の間に流れる時間をそのまま捉えるように、撮影では長回しも多用された。
「空気や温度を切らさず、長く回すことで、その瞬間を生きるように自然と感情も乗っていきました。監督もキャストもスタッフも高い熱量で伴走してくれて、この役に向き合うことは、私ひとりでは絶対にできなかったと思います」
限りある命と向き合う物語を経て、改めて胸に刻まれたのは、何げなく過ぎていく日々の尊さだった。
「時間は有限ですし、何事もなく一日一日がやってくることって、本当に奇跡みたいなこと。この作品が、自分の体と向き合ったり、大切な人との時間を見つめ直したりするきっかけになったらうれしいです」
『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』
『溺れるナイフ』の山戸結希監督が、がんにより24歳の若さで他界した遠藤和さんの手記を映画化。ステージ4の大腸がんを宣告されながら、抗がん剤治療を中断して出産する決断をした夫婦が、限られた時間を懸命に生き抜く姿を描く。
10月2日(金)より東京・新宿バルト9ほか全国公開。
『クロワッサン』1174号より
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