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文化の翻訳家・吉澤朋さんの着物の時間──祖父たちが残してくれた貴重な着物と真摯に向き合い、次世代へ繋げたい

今回の「着物の時間」は、文化の翻訳家・吉澤朋さん。長野県出身。東京都の国際広報支援専門職を経て、日本の工芸、文化を、その背景にある思想とともに海外に伝える文化の翻訳家として活動する。キュレーターを務める『多津衛(たつえ)コレクションと観る 佐藤阡朗(さとうせんろう)の漆と宗廣佳子の紬展』が長野県・多津衛民藝館にて、10月3日(土)~10月18日(日)に開催される。

撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江

祖父の藍色の紬に、母の茜色の帯。見守られているようで、心強いです

吉澤朋(よしざわ・とも)さん 長野県出身。東京都の国際広報支援専門職を経て、日本の工芸、文化を、その背景にある思想とともに海外に伝える文化の翻訳家として活動する。キュレーターを務める『多津衛(たつえ)コレクションと観る 佐藤阡朗(さとうせんろう)の漆と宗廣佳子の紬展』が長野県・多津衛民藝館にて、10月3日(土)~10月18日(日)に開催される。http://tomoyoshizawa.jp
吉澤朋(よしざわ・とも)さん 長野県出身。東京都の国際広報支援専門職を経て、日本の工芸、文化を、その背景にある思想とともに海外に伝える文化の翻訳家として活動する。キュレーターを務める『多津衛(たつえ)コレクションと観る 佐藤阡朗(さとうせんろう)の漆と宗廣佳子の紬展』が長野県・多津衛民藝館にて、10月3日(土)~10月18日(日)に開催される。http://tomoyoshizawa.jp

「今日の着物は、祖父・宗廣力三(むねひろりきぞう)の作品なんです。帯は母・宗廣佳子(むねひろよしこ)の作。私の大好きな組み合わせにしました」

直線と幾何学模様が織りなす『重ね斜め格子絣着物(こうしかすりきもの)』(昭和56年作)と名付けられた紬は、藍色の濃淡が美しく、見ているだけで爽やかな風が通り抜けるようだ。合わせた帯は、江戸時代に京都・島原で名をはせた、吉野太夫がこよなく愛した格子といわれる『吉野格子』をモチーフにしたもの。草木染が作り出す深みのある茜色が藍色によく映える。それらをまとい、にこやかに立つ「文化の翻訳家」の吉澤朋さんの姿は、大人の女性ならではの、たおやかな優しさを醸し出す。

「箏制作者の父が作ってくれた象牙と黒檀の帯留め。箏の装飾部分の素材だそうで、愛用しています」
「箏制作者の父が作ってくれた象牙と黒檀の帯留め。箏の装飾部分の素材だそうで、愛用しています」

「祖父は戦後途絶えていた『郡上紬(ぐじょうつむぎ)』の再興に努めた人物として知られ、1982年に重要無形文化財『紬縞織・絣織』保持者(人間国宝)に認定されました。祖父は争いの種にならない仕事、いつの時代でも通用する仕事として『郡上紬』の再興に取り組んでいたようです。そして、後進を育てることにも情熱を注いでいました。その思いが岐阜県・郡上八幡の染織研究所の設立に繋がったのだと思います。母も若いころ、この研究所で研修生として学んでいて、染織の勉強をしていました」

後に、郡上八幡から神奈川県南足柄に居を移し、祖父たちは染織の研鑽を重ねていく。

「その南足柄の研究所跡が今の私の住まいです。今回、祖父や母の作品を着て、ここで撮影することができ、なんて幸せなんだと……。そうそう、この帯揚げはたぶん母が染めた草木染だと思います。ベージュ色系でどんな着物と帯にも合わせやすいので愛用しています。帯がかわいらしい色使いなので、帯揚げで大人っぽい印象にしたくて選びました」

吉澤さんの住まい=研究所には数台の機(はた)をはじめ、草木染した色とりどりの糸が今も残されている。

「祖父も母もここで最大6人の研修生と寝食を共にしながら、染織に向き合っていたかと思うと、感慨深いものがありますね。私が覚えている祖父は穏やかな人で、うどんを食べさせてくれている写真が残っています」

という吉澤さんの仕事は文化にまつわる翻訳をすること。

「日本の文化や工芸をその背景にある思いと共に翻訳し、伝えることを中心に行っています。その一環として、海外の方が見たい、知りたいという伝統文化を体験できる場所に案内したり、一緒にものづくりの現場を訪れて説明をしたりします。その時はできる限り着物で案内するようにしています。幸い家には祖父や祖母、母の着物がありますので、それを着て行くととても喜ばれるうえ、実際に日本の手仕事に触れるよい機会にもなります」

茜色のグラデーションが美しい母親の『吉野格子』の帯。着物と帯の格子×格子が調和して美しい
茜色のグラデーションが美しい母親の『吉野格子』の帯。着物と帯の格子×格子が調和して美しい

着付けは母親がくれた「着付けの本」を参考に、動画などを見ながら覚えたという。

「20代のころは母が着付けてくれたのですが一人暮らしをするようになってからは自分で。きれいに着るコツは下着から丁寧に着付けることだと聞きますが、つい手を抜いてしまう。着付けは帯が苦手です。だからいつも、“さあ、ここから帯だぞ”と自分に言い聞かせて気合を込めて締めています(笑)」

長年、紬に触れ、親しんできた吉澤さんにその魅力について聞くと、「なんといっても風合いのよさ。張りがあるのに着れば着るほど肌に沿い、自分のものになってくれる。そして意外に着崩れない。紬に限らず、色の組み合わせの妙が無限にあるところや、柄と柄を合わせても不思議とマッチする。そこが着物の魅力ではないでしょうか。今後は祖父たちが残してくれた貴重な資料や着物類とその背景にある思いに真摯に向き合って、手仕事の文化の素晴らしさを次世代に伝え、繋げていきたいと思っています」

『クロワッサン』1173号より

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