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アナログレコード(2)──シンガーソングライター、作曲家・財津和夫×漫画家・おおひなたごうさん

レコード全盛時代、数々の名盤を生み出したバンド、チューリップ。とっておきの制作秘話やアナログへの思いなどが詰まった対談です。

撮影・青木和義 文・嶌 陽子 イラストレーション・おおひなたごう 構成・堀越和幸

アナログレコード(2)──シンガーソングライター、作曲家・財津和夫×漫画家・おおひなたごうさん

「兄の影響でチューリップのファンに。自分の漫画でもレコードを紹介してます」
右:おおひなたごうさん  1969年生まれ、秋田県出身。1991年、ギャグ漫画家としてデビュー。主な作品に『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』など。京都精華大学新世代マンガコース教授も務める。

「青春時代にビートルズのとりこになって、初めて買ったレコードも彼らでした」
左:財津和夫(ざいつ・かずお)さん 1948年生まれ、福岡県出身。1971年チューリップ結成、数々の曲を発表。解散後はソロとして活動、作曲家・プロデューサーとしても活躍中。

自身の青春時代も、チューリップとしてデビュー後も、長年レコードと共に音楽の道を歩んできた財津和夫さん。財津さんのファンであり、レコード愛好家でもある漫画家のおおひなたごうさんが、チューリップ時代のエピソードやアナログ盤の魅力に迫ります。

8年ほど前からレコードの魅力に夢中のおおひなたさん。「針を少しいいものに替えると音がガラリと変わるのが面白い」
8年ほど前からレコードの魅力に夢中のおおひなたさん。「針を少しいいものに替えると音がガラリと変わるのが面白い」

財津和夫さん(以下、財津) おおひなたさんの『レコード大好き小学生カケル』を読ませていただきました。ギャグ漫画として面白いし、レコードに関する知識もすごい。マニアックなレコードもたくさん取り上げてますよね。

おおひなたごうさん(以下、おおひなた) ありがとうございます。1巻の最初は王道のビートルズを取り上げてるんですが、その際にチューリップがビートルズをカバーしたアルバム『ALL BECAUSE OF YOU GUYS/すべて君たちのせいさ』(1976年)を紹介しています。これはチューリップファンの間でも知らない人もいるのでは。昔の少年漫画のパロディのようなジャケットも印象的です(下写真)。

おおひなたさんの作品にチューリップが登場 おおひなたさんの漫画『レコード大好き小学生カケル』(KAD…
おおひなたさんの作品にチューリップが登場
おおひなたさんの漫画『レコード大好き小学生カケル』(KADOKAWA)は全4巻。1巻では、チューリップのビートルズ・カバーLPが登場。

財津 自分たちのオリジナル曲で勝負していたものの、本当はビートルズが大好きで、カバーもしたかったんですよ。だから、このアルバムを出すことで自分たちの中で決着をつけたっていうのかな。これからはプロとして、自分たちの曲でやっていくんだっていう。だけどあまりに真剣にカバーしてるとも思われたくなかったんで、ジャケットはふざけてパロディ風にしました。

おおひなた ビートルズとの出会いは高校時代くらいですか?

財津 そうです。福岡にいた頃、ラジオから流れてきて……。でも最初はなんだかうるさいなと思って、あまりピンとこなかったんです。ところが高校2年生の時に映画が公開されまして。

おおひなた 『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1964年)ですね。

財津 友だちに行こうと誘われても最初は断ってたんだけど、「きっと女の子がいっぱいいるぞ」と言われてつい(笑)。上映前、スクリーンに映っていた観客のシルエットから湯気が立っていたのを覚えています。それくらい若者の熱気に満ちてましたね。僕も映画が終わった時には、もうとりこになってました。

おおひなた じゃあ、初めて買ったレコードもやっぱりビートルズですか?

財津 そう。浪人生の時にパチンコで稼いだお金で買った『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年)が初めてでした。

考える前にポロンとできた不思議なデビュー曲

おおひなた 僕は兄の影響でチューリップを聴くようになったんです。今回あらためてアルバムを1枚ずつ聴き返してみたんですが、ユーモラスな曲があるかと思えば、熱狂的なロックもあったりして、すごく自由な音楽ですね。

財津 デビュー当時は学生運動が盛んで、時代が混沌としていたんですよね。ある意味、何をやっても許される時代でもあった。ビートルズからアナーキーを学んだ気もしていたので、自由奔放にやっていました。

おおひなた デビュー作の「魔法の黄色い靴」(1972年)も名曲です。この曲はどういうインスピレーションを元に書いたんですか?

財津 チューリップ結成後、東京のレコード会社にプレゼンするために何か曲を作らなければいけないとなった際、あれこれ考える前にポロンってできちゃったのがこの曲なんです。背中を押されるって言いますけど、そんな感じでできた。不思議な話ですが。

おおひなた メロディーと詞が同時にできた、みたいな感じでしたか?

財津 そうかもしれません。詞にも特に論理性がないというか、頭で考えていないんですよ。もっとも、後でだいぶ直されましたけど。もっと恋愛の要素も入れたほうがいいとか。

おおひなた 最初は今とはかなり違う歌詞だったんですね。

財津 タイトルも、幼い感じを出したくて、あえて「の」を重ねて「魔法の黄色の靴」にしてたんだけど、文法的におかしいと言われて変えました。

おおひなた デビュー当時は、チューリップのメンバー全員で暮らしていたと聞きました。

財津 南青山の2Kのアパートでね。南青山といっても、当時は赤土だらけだったんですよ。練習する時は神田のスタジオを借りてやっていました。

おおひなた チューリップはレコードジャケットも面白いものが多い印象です。アルバム『無限軌道』(1975年)は、サングラスをかけた顔のアップ。あの顔は財津さんですよね。

財津 そうです。サングラスの中にメンバーの姿が映り込んでいるという。

おおひなた そういうところがユーモアがあって面白いと思います。ご自身で一番気に入っているジャケットは?

財津 『日本』(1975年)というアルバムですね。自分たちは洋楽を真似してやってるけど、実際には全く洋楽らしくない。俺たちがやっていることは、まるで梅干しをフォークとナイフで食べるようなものだよねっていうアイロニーを込めて、白いお皿の真ん中に梅干しを置いて日の丸に見立て、両脇にナイフとフォークを置いたんです。レコードジャケットも音楽の一部とまではいかなくても、自分たちのキャラクターや主張を表す大事なものでした。

おおひなた レコードも出し続ける一方、ライブもたくさんされていて。野外ライブも多かったですよね。

財津 野外ライブで忘れられないのが1980年の岐阜県・鈴蘭高原でのライブ。ものすごい雨で、楽器の音が全然出なかったのに、お客さんが「楽しかった」とすごく喜んでくれた。それまでライブというのは「この音いいだろう」って聴かせるものだと思ってたんですが、その時初めて音だけじゃないんだ、ステージと客席の間の気が巡っていることも大事なんだと気づいたんです。ライブのあり方をあらためて考えさせられた体験でした。

最近のブームのきっかけは「レコード・ストア・デイ」

財津 最近は若い人の間でもレコードがブームですよね。

おおひなた もともとは2000年代にアメリカで“レコード・ストア・デイ”を始めたのがきっかけらしいです。レコード屋さんを盛り上げようと、その日に合わせて新譜を出したりして。それでレコードを聴こうという機運が高まっていった。同じ頃、海外の人たちがYouTubeなどを通じて1980年代の日本のシティポップに惹かれ、日本に来てレコードをごっそり買っていくようになって。それが日本の若い人たちにも伝播したようです。

財津 おおひなたさん自身は昔からずっとレコードを聴いてたんですか?

おおひなた 子どもの頃は、レコードを買ってもそれをカセットに録音して、その後はずっとカセットで聴いていたんですよ。レコードは一度かけるだけだったので、今もきれいなままです。

財津 おおひなたさんの漫画のキャラクターは、レコードは聴いてあげることが大切だって言ってましたよね(笑)。

おおひなた 当時はレコードに悪いことをしたなと思います(笑)。本格的に聴き出したのは7〜8年前。仕事の都合で京都にひとり暮らしをすることになって。借りた部屋が殺風景だったので、そうだ、レコードを飾ろうと思ったのがきっかけです。そのうち飾っているレコードを聴きたくなって、プレイヤーを買ってきて。そこから少しずつハマっていきました。財津さんは、今もレコードを聴くんですか?

財津 昔はたくさん持ってたんですけど、今は手元にないですね。それに今も音楽を仕事にしているので、音楽を聴いてもつい「自分のステージに反映できないかな」などと考えてしまう。純粋に音に溺れられないんですよ。

おおひなた なるほど。ミュージシャンとしては、アナログとデジタルの違いはどう捉えていますか?

財津 デジタルになってからは「デジタルのほうがいい」ってずっと思ってきました。前は聴こえなかった細かい音もよく聴こえるようになったし。

おおひなた デジタルだとよけいなノイズもないですしね。

財津 ただ最近は、アナログで聴くと新鮮に感じます。昔はレコーディングの際、アナログ用にトラックダウン(多重録音されたものをミックスし、音質などを決めて一つの曲にまとめていくこと)していたんですが、アナログだと音が削られる部分が多いので、その前提でエフェクターなどでリバーブ(残響音効果)をたっぷり入れてたんです。そのせいで昔の自分たちの曲をデジタルで聴くと、リバーブが響き過ぎて音の実態が聴こえにくい。

おおひなた なるほど、そういうことが起きるんですね。

財津 ですから昔のレコード盤用に録音されたものはデジタル盤ではなくてレコードで聴いたほうがいいと思います。何はともあれレコードは聴くとほっこりあたたかくなりますよね。

おおひなた 自分で聴くようになって気づいたんですが、レコードの良さのひとつは、針を替えたりプレイヤーを替えたりすることで音をアップグレードしていけることかなと。漫画にも描いてますが、いい針に替えるだけで音がすごく滑らかになるんです。あと、最近は友人とお互いに好きなレコードを持ち寄って、お酒を飲みながら聴く会をしてるんですが、それも楽しい。そうやって共有できるのも魅力です。

財津 いいですね。僕も引退したら海の見える家にとびきりいい音響設備を揃えて、好きなレコードを思い切り聴きたいです。

おおひなた ファンとしては、まだまだ音楽活動を続けてほしいですが。夏にはライブにも伺いますね!

おおひなたさんが若い頃に作ったチューリップのカセットテープ。レタリングが凝っている
おおひなたさんが若い頃に作ったチューリップのカセットテープ。レタリングが凝っている

おおひなたさんの過去〜現在の愛聴レコード

『今だから』松任谷由実、小田和正、財津和夫 1985年リリース。豪華ミュージシャン3人による共作。アレンジは坂本龍一。「発売時にはかなり話題になり、僕もリアルタイムで買いました」
『今だから』松任谷由実、小田和正、財津和夫 1985年リリース。豪華ミュージシャン3人による共作。アレンジは坂本龍一。「発売時にはかなり話題になり、僕もリアルタイムで買いました」
『魔法の黄色い靴』チューリップ 1972年、デビューシングル「魔法の黄色い靴」と同時に発売されたアルバム。「ずっとワンコードで続くタイトル曲がとても印象的でした」
『魔法の黄色い靴』チューリップ 1972年、デビューシングル「魔法の黄色い靴」と同時に発売されたアルバム。「ずっとワンコードで続くタイトル曲がとても印象的でした」
『Cruisin' to the  Parque』(7インチ)Durand Jones & The Indications –  1960〜70年代のソウルを復活させる動き、“ヴィンテージ ・ソウル”の一枚。「古い音楽なのに、すごくよいサウンド」
『Cruisin' to the Parque』(7インチ)Durand Jones & The Indications –  1960〜70年代のソウルを復活させる動き、“ヴィンテージ ・ソウル”の一枚。「古い音楽なのに、すごくよいサウンド」
『Mr. Brown Eyed Soul  Vol.2』Sunny & The Sunliners おおひなたさんが最近注目するメキシコ系アメリカ人の音楽“チカーノ・ソウル”のレジェンドによるアルバム(2022年)。「甘くてメロウな音です」
『Mr. Brown Eyed Soul Vol.2』Sunny & The Sunliners おおひなたさんが最近注目するメキシコ系アメリカ人の音楽“チカーノ・ソウル”のレジェンドによるアルバム(2022年)。「甘くてメロウな音です」
映画『5つの銅貨』 サウンドトラック 1959年公開、ダニー・ケイ主演の映画のサントラ。「この中の“3Lullaby In Ragtime”という曲が好きで自分の結婚披露宴で演奏しました」
映画『5つの銅貨』 サウンドトラック 1959年公開、ダニー・ケイ主演の映画のサントラ。「この中の“3Lullaby In Ragtime”という曲が好きで自分の結婚披露宴で演奏しました」
『今だから』松任谷由実、小田和正、財津和夫 1985年リリース。豪華ミュージシャン3人による共作。アレンジは坂本龍一。「発売時にはかなり話題になり、僕もリアルタイムで買いました」
『魔法の黄色い靴』チューリップ 1972年、デビューシングル「魔法の黄色い靴」と同時に発売されたアルバム。「ずっとワンコードで続くタイトル曲がとても印象的でした」
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財津さんの青春時代を彩った思い出の名盤

『ラバー・ソウル』ザ・ビートルズ 1965年リリースの6作目のアルバム。「この中に収められている『ドライブ・マイ・カー』を、次のステージでカバーしようと考えています」
『ラバー・ソウル』ザ・ビートルズ 1965年リリースの6作目のアルバム。「この中に収められている『ドライブ・マイ・カー』を、次のステージでカバーしようと考えています」
『ア・ハード・デイズ・ ナイト』ザ・ビートルズ 初主演映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』のサウンドトラックでもある、1964年発売の3作目のアルバム。「彼らのとりこになりました」
『ア・ハード・デイズ・ ナイト』ザ・ビートルズ 初主演映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』のサウンドトラックでもある、1964年発売の3作目のアルバム。「彼らのとりこになりました」
映画『サウンド オブ  ミュージック』 サントラ盤 1965年公開のミュージカル映画のサントラ盤。「リアルタイムで映画を観ました。どの曲も好きだし、『エーデルワイス』の場面は何度観ても泣けます」
映画『サウンド オブ ミュージック』 サントラ盤 1965年公開のミュージカル映画のサントラ盤。「リアルタイムで映画を観ました。どの曲も好きだし、『エーデルワイス』の場面は何度観ても泣けます」
映画『ウエスト サイド  ストーリー』 サントラ盤 1961年に映画化されたミュージカルのサントラ盤。音楽はレナード・バーンスタイン。「僕の青春時代の思い出の映画。曲も全部好きです」
映画『ウエスト サイド ストーリー』 サントラ盤 1961年に映画化されたミュージカルのサントラ盤。音楽はレナード・バーンスタイン。「僕の青春時代の思い出の映画。曲も全部好きです」
『エルヴィス・プレスリー・ バイ・リクエスト』エルヴィス・プレスリー “キング・オブ・ロックンロール”の名曲を集めたアルバム。1982年リリース。「初めてプレスリーを聴いた時、ブレス音が聴こえるのが新鮮でした」
『エルヴィス・プレスリー・ バイ・リクエスト』エルヴィス・プレスリー “キング・オブ・ロックンロール”の名曲を集めたアルバム。1982年リリース。「初めてプレスリーを聴いた時、ブレス音が聴こえるのが新鮮でした」
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財津さん「引退したら音響設備を揃えて好きな音楽を思い切り聴きたい」
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おおひなたさん「友人とレコードを持ち寄って聴き合うのも楽しいです」
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『クロワッサン』1162号より

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