【白央篤司が聞く「自分でお茶を淹れて、飲む」vol.14】藤野貴子(菓子研究家)サブレから漂う香りとともに——カジュアルに、気取らずにお茶とつきあう
取材/撮影/文・白央篤司
CASTOR & Laboratory
Instagram:@chiakisakamoto
東京・小伝馬町にある藤野貴子さんのアトリエを訪ねたら、ちょうどサブレが焼き上がったところだった。
「明日の教室用の試作なんですよ」
デイジーのような形をしたサブレからいい匂いが漂う。数枚、味見に分けてくれた。香ばしくて、いきいきとした魅力的な甘さが噛むうち舌から体に広がり、手が止まらなくなる。取材そっちのけで食べる私に苦笑しながら、淹れてくれた紅茶は「MUSICA TEA」のものだった。
インドネシア「ブキットサリ茶園」のそれは、「えぐみが無くて、クリアでサラッとしている。それでいてうま味のあるのが気に入っている点」と教えてくれた。ああ、飲みやすい紅茶だ。菓子のタイプを選ばず、何にでも寄り添ってくれそうな素直な味わいだった。
実際、菓子教室のときは生徒さんたちに紅茶を出している。
「普段は……茶葉やお湯の量も適当にザッと淹れることも多いんですが、教室のときはきちんとパッケージの表示に従って淹れてます(笑)。うん、いや、ちゃんとおいしく飲みたいときは自分用でもそうするかな」
えへへ、と笑って言う感じに気取りがまるでなく、親しみやすい。藤野さんと紅茶のつきあい方もカジュアルそのもの。家族はコーヒー党が多い中、高校時代から紅茶が好きだった。大学生の頃はイギリス式のアフタヌーンティーに憧れ、たまに背伸びしてホテルのラウンジで楽しんだことも。
「その頃からだんだん好みが分かってきて。苦みが少なく、軽くてさわやかな紅茶が好きですね。決まりの量より少な目にして、ちょっと薄めで飲むのが好み。ただ『必ず茶葉はこれ!』というのはなく、アソートのティーバッグを気分に応じて楽しんだりもしていますよ」
毎日飲むほどの紅茶党でもないんです、と言葉を続ける。
「朝に一杯、何かしらを飲むんですよ。その日の天気や体調に合うものを。紅茶やほうじ茶、煎茶の日もあるし。これからのジメッとした季節ならアイスコーヒーが飲みたくもなるし」
「朝が弱くて、起きてからベッドで40分ぐらいは起きられず、ウダウダしてしまうんです」と笑う。だが一日しっかり働くために、朝食は抜かさない。そして何か一杯、自分のために飲み物を用意する。「それによって今日の気分が左右されることもありますね」。紅茶にせよ煎茶にせよ、藤野さんにとって朝の一杯はスターターとして重要なもののようだった。
愛用のカップは、愛媛で作陶を続ける作家・石田誠さんのものだった。シンプルでクールだけれど、表情は温かい。そしてサイズ感はデミタスよりやや大きめぐらいの感じ。
「ちょっとずつ入れて飲みたいんです。手に取って軽いのも気に入っていて」
手になじむ大きさや重さは本当に人それぞれで、取材を重ねるたび面白いものだと思う。仕事柄、毎日なんらかのお菓子が身近にある藤野さん。お気に入りのお茶うけなどはあるだろうか?
「私、ストレートティーだとおせんべいや和菓子も合わせちゃうんですけど、ミルクティーだったら洋菓子かなあ。シュークリームとか、生クリームを添えたガトーショコラとか」
クリームでねっとりした口の中は、ストレートティーよりもミルクティーのほうがすっきりする感覚がある、とも教えてくれる。これは取材後に実際試してみたら「なるほど!」と納得した。
「ミルクティーやストレートティー、それぞれに合うお菓子とか、茶葉の選び方に産地によっての違いのことなど、もっと紅茶のこと、知っていきたいと思っています」
夏にはソーダ水に茶葉をひと晩漬けてティーソーダを楽しむことも。ミントをたっぷり使う特製フレッシュハーブティーもお気に入り。「市販のミントだとどうしてもえぐみを感じるんですが、いつもお願いしている農園さんのミントで作ると、やさしい甘みが出てとてもおいしくて」と目を細めた。
先のガラスのティーポットいっぱいにミントが入ったら、目にも涼やかだろうな……。ハーブティーに藤野さんが合わせる真夏の茶菓子も気になる。
暑い時季にまたぜひ、取材させてください。
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