『自炊の風景』山口祐加 著──自分の適当な自炊を肯定してくれる一冊
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
“自炊料理家”の初エッセイ集。幼い頃の料理体験や日常の料理についての思いのほか、世界各国で自炊料理をふるまわれたりふるまったりした体験などがつづられる(ちなみに著者には『世界自炊紀行』という著作もある)。
思えば、自分も小さい頃から料理が好きだった。友だちとお菓子作りをしたり、親の誕生日に料理をふるまったり。その後の変遷は割愛するが、ただ、自分の世代は、手の込んだ料理や時間をかけた料理が評価されると感じてきたと思う。短時間で適当に作ったものは、“手抜き料理”という感覚があった。今思い出したけれど、昔、遅くに帰宅して焼き鳥の缶詰を使って夜食を作ったら、ルームメイトに「そんなの料理っていえるの」と馬鹿にされたのだった。それなりに憶えているということは、不快に思ったからなのか、引け目を感じたからなのか。
昨今は、かつて“手抜き料理”といわれていたものが“時短料理”と呼ばれ、手間暇かけた料理だけが評価される時代ではなくなった。さらには、こうして自炊の“名も無き料理”の一食一食を面白がり、大事にしている人がいる。自分の日々の自炊を肯定してもらえる思いがした。
『クロワッサン』1162号より
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