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「江戸メシ」太田記念美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

浮世絵に描かれた江戸のグルメ事情。

お寿司に天ぷら、蕎麦。今も人気のこのメニューは江戸にルーツのある食べ物だ。江戸時代には料理屋や料理本が普及し、庶民も外食や持ち帰りの惣菜など、多様な食を楽しむようになった。「江戸メシ」展はそんな江戸の食にまつわる浮世絵を紹介するもの。見ているだけで唾がわいてくる展示だ。

歌川広重「東都名所 高輪廿六夜待遊興之図」
歌川広重「東都名所 高輪廿六夜待遊興之図」

たとえば寿司や天ぷらは屋台で買える人気のファストフードだった。歌川広重「東都名所 高輪廿六夜待遊興之図(たかなわにじゅうろくやまちゆうきょうのず)」では阿弥陀如来らの姿が見えるという旧暦7月26日の月を待つ人々が、屋台の食べ物を楽しんでいる。ほかの浮世絵では串で天ぷらや鰻を食べる様子が描かれることもある。

四代歌川国政「志(し)ん板(ばん)猫のそばや」には店員もお客も猫という蕎麦屋の情景が描かれる。店の奥で職人が蕎麦を打っていて、中央では店員がお客に頭から蕎麦をかけてしまうという事故が起きている。

四代歌川国政「志ん板猫のそばや」
四代歌川国政「志ん板猫のそばや」

歌川広重「鯛 鯉 鰹」は江戸っ子が大好きだった魚を並べたもの。江戸の街では「振り売り」という行商人がさまざまなものを売り歩いていた。現代でも人気の「初もの」は江戸でも好まれ、「初鰹」などに舌鼓を打つ人も多かった。

展覧会が開かれる太田記念美術館は東邦生命保険相互会社の社長だった五代太田清藏(1893〜1977)の個人コレクションを核とした浮世絵専門の美術館。親しみやすい切り口で浮世絵を紹介してくれるこの美術館で、江戸の暮らしがもっと身近になる。

歌川広重「鯛 鯉 鰹」
歌川広重「鯛 鯉 鰹」
葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳ら人気絵師の約90点が並ぶ。サイコロ状にカットしてお皿に盛ったスイカなど、ちょっと真似してみたいアイデアも。美術館はJR原宿駅近く、来館者には外国人も多い。
 
『江戸メシ』
2025年1月5日(日)~26日(日)
⚫︎太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1・10・10) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル) 
10時30分〜17時30分 月曜、1月14日休(1月13日は開館) 
入館料一般1,000円ほか
  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1132号より

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