特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」東京国立博物館 平成館──江戸っ子の心を沸き立たせた蔦屋重三郎の活躍
文・青野尚子
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK)でも注目を集める蔦屋重三郎。彼の出版活動を紹介する展覧会が開かれている。
蔦重こと蔦屋重三郎は18世紀後半に活躍した、江戸のメディア王。風刺を織り交ぜた読み物などのベストセラーを連発、喜多川歌麿・東洲斎写楽らを世に出した敏腕プロデューサーだ。
見どころのひとつは彼が携わった本の数々だ。遊女たちがすごろくや香合に興じる姿や、各妓楼自慢の遊女たちを艶やかに描いた本は吉原生まれの蔦重ならではのものだろう。人気戯作者・山東京伝を起用した絵入り小説「黄表紙」は「浦島太郎」の後日譚という荒唐無稽なストーリーだ。
蔦重が発掘した浮世絵師の一人、喜多川歌麿はまなざしや手、さまざまな小道具で女性の心情を表現した美人画で人気となった。蔦重が企画出版したとされる春画本『歌まくら』では男女の駆け引きなどの機微が余すところなく描かれる。当時無名だった新人絵師、東洲斎写楽を起用して刊行した一挙28枚の役者大首絵(クローズアップ、バストアップのポートレイト)は浮世絵界にセンセーションを巻き起こした。役者の個性を美化しすぎることなく描き出した写楽の浮世絵は今も強烈な印象を残す。
会場には蔦重が活躍した天明・寛政期の江戸の街の再現展示も。江戸っ子たちを夢中にさせた希代のプロデューサーの才気と江戸の活気がよみがえる。
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
開催中〜6月15日(日)
田沼意次や平賀源内と同時代に生きた蔦屋重三郎。淡く光る雲母摺りなど「浮世絵黄金期」の技巧も存分に堪能したい。
期間中、展示替えあり(前期:〜5月18日、後期:5月20日〜6月15日)。
東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13・9) TEL:050-5541‐8600(ハローダイヤル) 9時30分〜17時(金・土曜は〜20時) 月曜休 観覧料一般2,100円ほか
『クロワッサン』1141号より
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