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『元気じゃないけど、悪くない』著者、青山ゆみこさんインタビュー。「自分のためのケアを探す過程も、もうリハビリです」

撮影・福森クニヒロ

「自分のためのケアを探す過程も、もうリハビリです」

青山ゆみこ(あおやま・ゆみこ)さん●1971年、神戸市生まれ。著書に『人生最後のご馳走』(幻冬舎文庫)、『ほんのちょっと当事者』(ミシマ社)、『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』(村井理子さん、牟田都子さんとの共著。亜紀書房)など。
青山ゆみこ(あおやま・ゆみこ)さん●1971年、神戸市生まれ。著書に『人生最後のご馳走』(幻冬舎文庫)、『ほんのちょっと当事者』(ミシマ社)、『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』(村井理子さん、牟田都子さんとの共著。亜紀書房)など。

2020年初夏、青山ゆみこさんは愛猫シャーを喪った。その前に親の介護と看取りを経ての〈自分の分身のように特別な存在〉との別れ。コロナ禍もあって喪失感で飲酒の量が増大。

その結果、〈わたしは大きく「心の調子」を崩した。「心」と書いたが、現れたのは「身体の不調」でもあった。心と身体のどちらも「ぽきん」と折れた〉。

本書は青山さんが3年間をかけて不調に向き合い、さまざまなメソッドを模索し生きやすさを獲得した物語だ。

SNSで勧められまず始めたのはパーソナルトレーニング。これを機会にアルコールを断った。

「シャーがいなくてつらい気持ちを、お酒を飲んでボウボウ燃やしているような状態で。このままではアルコールで死ぬ、と思いました」

真面目に運動をし、食事をトレーナーに報告して助言を受ける。体重は8kg落ち、血圧も平常値に。

しかしそれで解決万々歳、とはいかないのが人生のリアル。慣れない正しい生活に、心に徐々に違和感が募る。そしてあるとき、青山さんの頭の中が突如〈薄暗い部屋にワット数の高い電球を点けたように〉なった。〈全能感というのだろうか。めちゃめちゃ頭が良くなって自分でなんでも「わかる」気がした〉。

青山さんは自分が躁状態であることに気がついた。

「東畑開人(とうはたかいと)さんが臨床心理学講座でおっしゃってたことですが、例えば誕生日とか結婚式とか喜ばしいお祝いごとも、人にとってはストレスになるというデータがあるそうです。自分に良かれと思ってのこと、社会的に良いものとされていることでも。私にはたまたま知識があったので、これはすぐ精神科に行かなきゃなって。躁のときって、この頭のぐるぐるするしんどさを止めるには死ぬしかない、とか考えちゃうんです。あ、自分やばいな、って」

自分に合うケアは身体が感覚で教えてくれる。

その後も不安障害、浮遊性めまいに更年期、ひとつ乗り越えると次の不調がやってくる。そのたび専門医にかかり本を読み、講座を受けた。

「めちゃくちゃトライアンドエラーしました。お医者さん探しが外れたとしても病院まで行ったことはリハビリになるし、と考えて」

そうして青山さんがたどり着いた結論は〈私の身体は頭がいい〉。

「私は、今は少しお休み中なんですけれども内田樹(たつる)先生に合気道を師事していて、先生がよく言われている言葉が『頭で考えるより身体が先に知っているんだよ』ということ。道を歩いていて雨が降ってきたら、濡れたら嫌だなと思う前に自然にヒュッと手でよける、あの感じです。それと同じように、ケアを模索するなかで頭で考えるより先に、ここにいると気持ちがいいなとか、この人と喋っていると楽しいな、という身体感覚を信じるとうまくいく」

青山さんの経験と実践は、誰にでも訪れる心身の変化に対峙するための案内書だ。やがてくるいつかのお守りとして、読んでおきたい。

不安障害、めまい、躁鬱。誰の生活にも起こりうる「わけのわからない不調」と付き合い乗りこえる、実践の書。 ミシマ社 2,090円
不安障害、めまい、躁鬱。誰の生活にも起こりうる「わけのわからない不調」と付き合い乗りこえる、実践の書。 ミシマ社 2,090円

『クロワッサン』1120号より

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