「刑事事件を取材する機会が多い中で、被害者の言葉も大事だけど加害者の声も聞きたい。そうすることで事件の背景に踏み込んでみたい、という気持ちがありました」
事件の根源となったのは、妙子があかりに課した目標だ。地元の国立大学の医学部に入学すること。
本書には〈棄権できないレース〉を設定されたあかりが受けてきた、苛烈な虐待の数々が綴られる。
定期試験の成績が振るわないとヤカンの熱湯をかけられる。模試の偏差値が志望校に10足りないと、鉄パイプで10回殴られる。あかりはせめて大学入学後には母のもとから逃げたいと、こっそり遠方の医学部を受験しに行くが、試験日に校門の前でつかまり、試験を受けられず連れ戻される(その絶望感!)。
そしてこの日々のなかで、母娘は毎日必ず一緒に風呂に入るのだ。〈入浴中に、手桶で殴られたこともあった。あかりの左の額には、いまも一・五センチほどの傷が残っている〉