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【紫原明子のお悩み相談】夫が気が利かず心配です。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回は結婚してから家事を全くしない夫について考える女性からの相談です。

<お悩み>

こんにちは。 いつも読ませて頂いています。 主人のことなのですが、家にいるとあまりに気が利かないのですが男の人はこんな感じなのか相談に乗ってください。

主人は51歳、結婚して27年になります。 先日5連休で私は5連勤だったのに、全くなにもしないんです。 洗濯いれようとか、ぼちぼちお風呂いれようかとかなくて、ひたすら待ってます。 私が仕事なのでなにかやっておこうとか思わない?と聞いても、しようとは思うけど体が動かない!とゴロゴロしています。 この前は大雨でさすがに洗濯いれてるだろうと思ったのですが出しっぱなしで、そんなとこまで考えが及ばないと言います。 もちろんご飯を作るとか掃除もしないです。

会社でも気が利かなくて仕事が出来てるのか、まわりの人はどう思ってるのか本当に心配になります。 27年なにもしないのでもう無理でしょうか? まだ若い時に、育児を手伝ってほしいと言ったら、同じだけ稼いできたらやってもいい!と言った過去があります。 根本はこの考えなのかなぁと思います。 養ってもらってることには感謝していますが もう疲れてきました。

(もも/女性/主人51歳 私51歳 ロングのパートです。 子供二人一人は結婚して自立、一人は社会人ですが家にいます。)

紫原明子さんの回答

ももさんこんにちは。ももさんのご事情、とてもよくわかります。夫に家事を頼んでも、不機嫌になられたり、うやむやにされたりということを何度となく繰り返していると、そこにいちいち腹を立てる時間がただでさえ忙しいこちらの日常を余計に圧迫して、もうそんな面倒なことになるくらいなら自分でやったほうが早いと諦めてしまうんですよね。夫婦で助け合うのが当たり前になるまで粘り強くコミュニケーションを続けるって本当に大変です。ときに、たちの悪い夫は、家がギスギスしたら何やかんや理由をつけて帰宅を拒否るという最終手段さえ使ってきますからね。こっちだって帰らなくていいなら帰りたくないときなんていくらでもあるし、また逆に「よし、今日はここまでにしとこう」と、いい頃合いで退社したいときなんていくらでもあるわけですが、そんなことしたら子供が死んじゃうからいつなんどきも家に帰るしいつなんどきも親として稼働しているわけです。これに加えてももさんは、お子さんが成人されてからも尚、自ら働きながら、夫といういい大人の生活のお世話を続けていらっしゃるというわけで、決してタダで養ってもらっているわけではありません。だから、どう考えても、もっと大きな顔をしていいのです。

ただ、そもそものところを考えてみると、こっちだってこれだけやっているから大きい顔をしていいはずだ、という理屈を夫婦間で持ち出さなければならない状況そのものに、なにか途方もない虚しさを感じてしまいます。仕事と、家事・子育てという異質なものを、どちらがどれだけやっていて、どちらがどれだけ大変かと比べることははなから無理なことで、なのにそんな無理を持ち出してまで等価交換が成立したという実感を得られなければ一緒にいる価値がないというのなら、パートナーシップなんて最初から結ばなければいいのです。必要に応じて業者に頼んだほうがよほど明朗会計なのです。でも、それでは決して満たされないものがあると信じて結婚したのではなかったでしょうか。お互いの労働を天秤に掛けるなんてことをしなくても、信じ合って、労り合う先にある幸福を求めて結婚をされたのではないでしょうか。

少なくとも、ももさんは今尚それを忘れていないから、旦那さんの労働に対し「感謝している」と仰るのだと思います。……が、一方で旦那さんの方はというと、お手紙を拝見する限りでは、どうもそんなももさんに、すっかり甘えきっていらっしゃるようにお見受けします。そりゃ疲れますよね。けれどこのことは必ずしもももさんだけでなく、旦那さん本人にとっても、決して良いことではないと思うのです。何しろ「仕事で疲れている」「これだけ稼いでみろ」と自分の働きを誇示すれば、面倒ごとは一切回避できる27年間によって、旦那さんは今や自力で生活する力を失ってしまいました。お金を稼ぐためにだけ生きる人になってしまったのです。

仮にもしこの先旦那さんに何かあったとしても、ももさんはきっと大丈夫でしょう。お子さんももう自立されているし、パートにも出られているから定期収入も友人関係もきっとある。これまでの資産や保険などもあるだろうから、万が一のことがあったとしても、きっとなんとか生活していかれるのだろうと思います。けれどももし、ももさんに万が一のことがあったら、旦那さんはどうなってしまうんでしょう。お金はあるかもしれないけれど、生活を営むことはできるでしょうか。コンビニでお弁当と飲み物を買ってきたあとに、やたらかさばるゴミが出ることを、旦那さんはご存知でしょうか。燃えるゴミの日、燃えないゴミの日を、旦那さんはご存知でしょうか。お住まいの地域の分別方法を、旦那さんはご存知でしょうか。

私は趣味で、いわゆる“ゴミ屋敷”清掃のYouTube動画をよく見るんですが、世の中にはゴミを捨てられない人が本当にたくさんいるみたいです。何を隠そう、私自身も家事が得意ではないので、いつ自分の家がそうなってしまってもおかしくないという危機感を常に持って、ヒーヒー言いながら過ごしています。生きて生活する限りゴミが出るし、ゴミ出し一つとっても色んな制約がある。家をゴミ屋敷にしないというただそれだけのことでさえ、慣れない人には本当に大変なことです。やり方を知って、やり慣れておかなければ、とてもじゃないけど急にはできないことなのです。

不吉なことを言うようで申し訳ないのですが、ももさんを失った旦那さんが、床上1メートルほど積もったゴミ屋敷で、何ヶ月も洗っていない黄ばんだパジャマに身を包み、無表情でストロングゼロを飲んでいるところを想像してみてください。多少なりとも不憫だと感じたら、やはりここはある程度覚悟を決めて、現状を変えるためのアクションを起こすべきではないでしょうか。覚悟を決めるというのは、最悪の場合、離婚するかもしれない可能性も考慮に入れる、ということです。なぜなら旦那さんは、ももさんが離婚できないと思っているからももさんの言葉に耳を貸さないのです。であればこそ、刺し違える覚悟をもって望まなければ、ももさんだけが疲れていく状況は変わらない。27年間のコミュニケーションの断絶というのは、決して修復できないだろうと思うのです。

旦那さんに家事をやらせる一世一代のミッション、最初は「万が一私に何かあったときにあなたがゴミ屋敷に住まないためにも、今からでも遅くない。少しずつ家事をやれるようになったほうがいい」と、相手のメリットを提示しつつ、静かに、しかし力強い交渉から始めてみましょう。この際、うその目眩を起こして見せたり、「ちょっと病院に行ってくる」「私の生命保険って、どうなってたっけ」などと、健康に深刻な問題を抱えているけれどもそれを隠している様子も装ってみましょう。そうすることで、「妻はもしかすると余命宣告を受けているのか?!」と家事をやらなければいけない事態に、旦那さんがより切実さを感じてくれるかもしれません。

しかしお手紙によると残念ながらあまり気が利かない旦那さんということなので、そんな様子にも一切おかまいなしに、これまでの勝ちパターンを踏襲して「誰の金で食ってると思ってるんだ」などと言ってくるかもしれません。それでも、ミッション遂行のためには引き下がるわけにはいきません。本当はしばらく別居でもできたらいいんですが、それが難しければ、多少面倒でも、お互い自分の家事は今後すべて自分でやる、という取り決めを交わしたらどうでしょう。洗濯も料理も掃除も、ももさんはあくまで自分の分だけやるのです。長く家族でいらっしゃるので、途中、旦那さんの姿を可哀想だと思うときもあるかもしれません。が、長い目で見れば旦那さんのためになることをやってあげているのです。今回ばかりは断固として揺るがないぞ、というももさんの強い意志を相手に示しましょう。そんな中、ついに旦那さんが音を上げて謝ってきたら、おめでとうございます、ももさんの勝利です。いよいよ家事の分担交渉を始めましょう。これを機にご夫婦の関係が新しい章に突入するかもしれません。……しないかもしれません。

こんなふうにうまくいく可能性がどれほどあるか、正直わかりません。ただ少なくとも言えることは、“なんだか疲れたなあ”を、あまり長いこと放置し続けないほうが良い、ということです。“疲れたなあ”を放置していると、いつしかそれが当たり前になってしまい、自分で自分を労ってあげることさえできなくなってしまいます。

ここまで主に旦那さんの心配ばかりしてきましたが、一番大切なことは言うまでもなく、今後30年、40年と続くであろうももさんの人生です。子育てもひと段落された今、旦那さんのことも含めて、あらためてご自身がどう生きていきたいか、ももさんの人生の充足には、何が必要で、何が必要ないかということを考えてみてはいかがでしょうか。ももさんが毎日を健やかに過ごせる道が見つかることを、心より祈っています。

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イラスト:わかる
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  • 紫原明子

    紫原明子 (しはらあきこ)

    1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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