清楚な美人タイプのマドンナを前にすると、借りてきた猫のようにかしこまる寅さん。しかし自分と同じ匂いのする女性の前では、また別の顔を見せます。腐れ縁の歌手リリー(浅丘ルリ子)とはフーテン気質の〝陰″な部分で惹かれ合い、反発し合う一方、本作の芸者ぼたんとは、底抜けにカラッとした〝陽″の部分で共鳴します。とにかくウマが合う2人。顔を合わせただけでお互いテンションMAXまでブチ上がり、ゲラゲラ笑って冗談ばかり言う掛け合いがとにかく楽しい。別れ際、「いずれそのうち世帯を持とうな」「ほんま? 嘘でもうれしいわ!」なんて小粋な会話にぐっときます。
舞台の巡業途中、48歳で事故死した太地喜和子。落ち込んだ時こそ「さぁ飲も飲も!」と豪快な笑顔を見せる、堅気じゃない女性独特の色気が圧巻です。シリーズのお約束を破ってラストの失恋が描かれないのは、寅さんにとってマドンナというより、バディ(相棒)に近かったからかもしれません。