北極について、ゆっくり話そう。【石川直樹さん×阿部雅龍さん 対談】
実はこんな世界が広がっていました。
撮影・内田倫紘 文・嶌 陽子
多様な国や民族が存在する一方で、「北極圏」の共通文化もあります。(石川さん)
動物もシロクマだけじゃない。キツネやカラスなど、多種多様です。(阿部さん)
北極・南極対談の1回目のテーマは北極。北極圏を度々訪れている写真家の石川直樹さんと、冒険家の阿部雅龍さんが語り合います。北極初心者に向けて、「そもそも北極とはどんな場所か」という話からスタートしました。
阿部雅龍さん(以下、阿部) 北極の定義を知っている人は意外と少ないかもしれませんね。北緯66度33分より北のエリアが北極圏となります。
石川直樹さん(以下、石川) 南極は氷に閉ざされた広大な大陸だけど、北極の大半は海で、その中に島々や氷が浮かんでいる。「北極」という大きな氷の大陸があるわけではないんです。北極点も海に張られた氷の上にありますし。
阿部 北極圏は、すごくざっくり言うと、直径約5200kmの円。おそらく皆が想像しているよりもずっと広いですよね。
石川 荒野というイメージが強いだろうし、動物といったらホッキョクグマくらいしか思い浮かばないかもしれない。でも実際には動物の種類も多い。
阿部 僕も実際に行ってみて、多様な動物がいるという印象が強かったです。アザラシ、イッカク、ジャコウウシ。カラスもいましたね。ホッキョクギツネは夜、僕が泊まっているテントのそばまで来ました。
石川 住んでいる人たちも多種多様です。ノルウェーやスウェーデン、フィンランド、ロシア、アメリカ領のアラスカ、カナダなど、たくさんの国がある。民族だと、イヌイットやエスキモー、シベリアやスカンジナビア半島北部の先住民など。でも、国や民族は違っても、生活や文化に似通っている部分がありますね。国境を超えた「北極圏」という輪としての領域というか。
阿部 世界最大の島であるグリーンランドも、大半が北極圏内。デンマーク領で、島の8割以上が氷に覆われています。人が住んでいるのは沿岸部だけ。
石川 グリーンランドにある世界最北の村、シオラパルクの今の村長は大島育雄さんという日本人ですよね。
阿部 そう。植村直己さんと同時期に北極点に行き、現地の女性と結婚し、そのまま北極圏に住み着いた人です。犬ぞりを操って狩猟をしています。僕がシオラパルクに行った時にもお世話になりました。
石川 僕は電話で話したことはあるけど、まだお会いしたことはないんです。
昔ながらの犬ぞりとスノーモービルが混在。
阿部 石川さんが初めて北極圏に行ったのはいつなんですか?
石川 2000年に7カ国の若者8人で北磁極から南極点まで人力で移動する“Pole to Pole”というプロジェクトに参加した時です。スタート地点の北磁極には飛行機で行ったんですが、降り立つと見渡す限りの氷でした。
阿部 今の話に出た北磁極というのは、方位磁石の北をずっと追いかけていくと辿り着く場所ですね。地球の自転軸の最北端である北極点とは、また異なる位置。北磁極は年々北に移動していますが、ここ数年、移動のスピードが速くなっているのだとか。理由はわかっていないけれど。
石川 今の北磁極の位置は、僕が19年前に出発した場所から、だいぶ移動していますね。
阿部 僕が初めて北極圏に行ったのは5年ほど前、カナダのバフィン島。イヌイットの人たちが暮らす村々を回ったのですが、彼らの生活が自分たちとほとんど変わらないことに驚きました。家では暖房もWi-Fiも使えるし、近所にスーパーもある。極北になればなるほど、狩猟をしたり、アザラシの肉を食べたりと、僕らがイメージするイヌイットの生活が残っている場所が多い。けれど、南部では都市化が進んでいる地域も増えていますね。
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