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注目を集める年金制度
「確定拠出年金」って?後編

最近よく聞く個人型確定拠出年金って、いったいどんな制度? その仕組みと利用すべきかどうか、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんに解説してもらいます。後編の今回は実際に利用すべきかどうか、具体的な例を出してアドバイスをいただきます。

掛け金は全額所得控除対象に。受取時には非課税枠があるが・・・

確定拠出年金制度(以下、)DCとは、加入者が毎月掛け金を払い、預金、保険、投資信託などで運用する制度。会社が社員のために掛け金を払ってくれる企業型と、自分で掛け金を払う個人型があり、前者は基本的に会社に湯田ねることになる。今回は、個人型DCについて詳しく解説する。

まず、大きなメリットは2つ。まず、拠出時の掛け金が全額、所得控除の対象になること。これによって、所得税と翌年の住民税が軽減される。次に、運用益が非課税であること。一般の金融商品は、利息に税金がかかるが、DCは無税だ。この2点だけを考えると、確かにDCはいいことずくめに感じる。

掛け金の拠出時だけを考えると、DCは会社員でも自営業者でも、明らかにメリットが大きい。

「掛け金は全額、所得控除の対象になるからです。ほかの金融商品ではまず考えられません」

そう話す深田さんに、具体的な例をあげてもらった。

ケース① 年収700万円で、妻と子ども2人の4人家族

所得税10%・住民税10%、DCの掛け金は月2万円。

掛け金24万円×(所得税10%+住民税10%)=節税額 年4万8000円

ケース② 年収800万円で、妻と子ども2人の4人家族

所得税20%・住民税10%、DCの掛け金は月2万円。

掛け金24万円×(所得税20%+住民税10%)=節税額 年7万2000円

※2例とも復興税は未考慮

と、どちらの家庭も、節税効果が高いことがわかる。

「ただし、これは会社員や自営業者で節税額以上の税金を払っている人のケースです。新たにDC加入対象になる第3号の主婦は、そもそも納税していないので、控除の対象ではありません。ただし、パート収入が103万〜130万円の範囲の場合は、数万円の課税対象部分があるので、それに応じてほんのわずかだけ、節税にはなります」

妻の掛け金を夫が負担する場合、世帯主である夫の所得控除にはならないのだろうか。

「現行制度では認められていません。妻のDCはあくまでも妻の分として考えてください」。

個人型DCは、拠出時、運用時の課税がなく、メリットは大きい。しかし、受取時は課税される。課税額は、 退職金との関係で差が出るので、会社員の場合は退職金制度をよく確認したうえ、DCの加入を検討したい。

運用益の非課税は圧倒的メリット。 手数料0円の金融機関がおすすめ。

前述のように投資による収益を目減りさせるのは、税金と金融機関の手数料。しかし、税金面ではDCは優遇策が用意されている。

「まず、運用益は非課税です。これは文句なしにメリットですね」

ただし、手数料については、どの金融機関を選ぶかによって、金額がかなり違ってくるので注意したい(下の表参照)。

「現状、スルガ銀行とSBI証券は条件を満たせば手数料0円で、圧倒的に有利。DCをきっかけに口座獲得に特に力を入れている金融機関だからです。今DCでの積み立てを検討しているならば、この2つを選べばメリットはあると思いますよ。他機関の商品を選んだら、何も動きがなくても、毎月手数料がかかるわけですから。ただし、SBI証券は、口座に50万円以上の残高がある場合に限っての手数料0円です。つまり、〝うちと懇意にしてくれればサービスしますよ〟というスタンス。DCをきっかけに顧客を増やし、他の商品へつなげていきたいのでしょう」

それに対して、大手銀行の手数料は割高だ。最高額の銀行は月額378円。年間4,536円にもなる。

「大手銀行は強気です。手数料を安くしてDCの顧客ばかりが増えても、手間がかかるだけですから」

DCの運用に関しては、現在のところ、どの金融機関を選択するかで、条件は大きく異なってくる。運用期間は60歳になるまでと、とても長期にわたるので、手数料の積み重ねも決して少ない金額ではないことを頭に入れておきたい。

*1 スルガ銀行は、毎月掛け金を積み立てるか残高50万円以上の場合、無料となり、それ以 外は月270円の手数料がかかる。 *2 SBI証券は残高50万円以上の場合、無料となり、それ以外は月324円の手数料がかかる。 (2016年6月1日現在)

受取時の課税額は退職金の金額等にもよる。 自分の課税額をよく検討してから加入したい。

DC加入が本当に有利か。もっとも差が表れるのが受取時だ。というのも、退職金同様かなり優遇はされるものの、課税の対象にはなる。

下の図を見てほしい。40歳からDCに加入して、60歳で受け取るケース比較表になっている。

「Bさんの例でもわかるとおり、自営業やフリーランスの場合は、他の金融商品と併用せず月3万3000円までの掛け金なら非課税枠内に納まり、DC分はまるまる受け取れます」

しかし、会社員の場合は、退職金と合わせて計算されるので、トータルの額が多ければ不利になる場合も。

「退職一時金は、勤続年数20年まで1年あたり40万円、21年目からは1年あたり70万円は非課税ですが、DCもこの基準で計算されます。Aさんの例を見るとわかるとおり、退職一時金とDCを合わせた額のうち、800万円までは非課税ですが、それ以上は課税対象になってしまいます」

では、数年に分割して年金のようにして受け取ることはできないのか。

「できます。でも、必ずしも有利にはなりません。DCを年金受け取りすると、『公的年金等控除』が受けられますが、60 歳以降働いている間は給料と合わせて課税、年金のみの生活になると厚生年金など公的年金と合わせて課税されるので、受取時に非課税になるケースは考えにくいです」

掛け金を会社が払う企業型はともかく、会社員の個人型DC加入は、自分の退職金の額を会社に確認するなどして、慎重に検討したほうがよさそうだ。

上記のとおり、退職金がない自営業やフリーランスはほとんどの場合、非課税で受け取ることができる。しかし、 会社員や公務員は退職金と合わせて課税額が決まるので注意が必要だ。

◎深田晶恵さん ファイナンシャルプランナー/生活設計塾クルー取締役。近著に『定年までにやるべき「お金」のこと~年金200万円で20年を安心に生きる方法』(ダイヤモンド社)。

『クロワッサン』928号より

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