くらし

福田里香さんが訪問。奈良の石村由起子さんが改修した、野花に囲まれた小さな一軒家。

  • 撮影・青木和義 文・大和まこ

年齢を重ねて向き合い始めた、夫婦が幸せになる住まい。

建築家の中村さんによる改修のポイントはどんなところにあるか?

「お伝えしたのは予算といくつかの希望だけです。せっかくの景色を見ながらご飯を食べたい、夫のためにすべてバリアフリーに、そしてデッキも作りたい、古い家の活かせるところは活かしたいということ。機能の面では、夫の足腰にもいいというジャグジーのお風呂や、今の家が寒いので床暖房を採用しました。お風呂にも暖房を入れて、キッチンは明るく。将来、車椅子生活になるかもしれないことを考えて、トイレは広くスロープもつけました」(石村さん)

これからの体調のことを考えて、細部に神経を行き届かせた。そして完成した、中村さんが切り取った古い家。あちこちに歴史を感じさせる要素を残しながらも、全体を見れば極めてモダン。
「今住んでいる家のキッチンはもっと広いんですよ。野菜を切ってからコンロまでスキップしながら行くくらい離れてる(笑)。その無駄をいつも感じてました。夫と2人だし、物も減らして選んだものだけを置く、だったらこれで充分かなと」

「台所は実際に立ってみると作業の動線の良さを感じます」とは福田さんの感想。

奈良に暮らして40年近くになる石村さん。家の前にはちょっとかすれているものの、万葉集の「猟高(かりたか)の高円山(たかまとやま)を高みかも出で来る月の遅く照るらむ」の歌碑が立ち、古へ思いを馳せることができる場所でもある。

「生活圏として住み始めた奈良。ひょんなことから店を経営することになって、あっという間に35年経ったけれど、いろんな意味で愛着を感じています。今また奈良の歴史をもう一度辿りたいし、いつかは庭で月見茶会もやってみたい」

車椅子でも通れるように、と設置されたスロープ。広々としていて家のデザインに溶け込んでいる。
家の中央には寝室になる予定の部屋。廊下からトイレへとフルフラットになっていて、バリアフリーな造り。
何気ない外観だが、よく見ると壁の角が丁寧に“面取り”されている。人に優しい設計はこんな細部にも。
物は厳選して暮らすつもり。写真の鉢はお気に入りのひとつで、現在住む家から持ってきた。
滑り止めとして細かな溝がつけられたウッドデッキ。中村さんの使い手への心配りを感じる、さりげない仕様。
シンプルな玄関の調度品は、石村さんがこれまで愛用してきたベンチや器。空間にすっとなじむのはさすが。
壁に吉野和紙を貼った蔵は、改修前のイメージを一新する明るい空間に。階段を上ればロフトが現れる。
鬼瓦には鯛を抱えた恵比寿様。屋根は古いままの姿で残されており、白い壁とのコントラストが美しい。
蔵のロフトはゲストのためのベッドルーム。新たに作られた天窓から差す日が心地よく、宿泊希望者も続々。
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