中井さんが必ず訪れるもうひとつの場所が美術村。柏の木が茂る森に5つの美術館が点在、さらには庭園や芝生も有する広大な施設だ。
「ゆっくり散歩していると、ところどころに美術館が現れます。そのすべてが建物、展示にいたるまで個性的で、素通りできない。屋外にも彫刻がふいに展示されていたりして、つい時間を忘れてしまいますね」
そう話す中井さんが歩くヤマモミジの並木道や遊歩道に敷かれているのは、旧国鉄の枕木と、札幌軟石。随所にそんな歴史の香りと、先鋭的な感覚がさりげなく同居しているのも中井さんの琴線にふれるという。
「たとえば建物のレトロな風情が素敵な『相原求一朗(あいはらきゅういちろう)美術館』ですが、奥の増築部分に進むと、ぐっと現代的でシャープなデザインになるんです。そうすると同じ画家の絵なのに、鑑賞する側の感覚もがらりと変わる。古き良き、に終わらない仕掛けに唸らされます」