約20年前に来日して以来、雑誌や広告など、幅広い分野で活躍するイラストレーターのクレメンス・メッツラーさん。今回挙げてくれたサラミは、故郷ドイツでの思い出と強く結びついている。
「ドイツには昼は温かい食事をとり、夕食は火を使わず、パンとソーセージ、チーズなどで軽く済ませるという習慣がありました。ソーセージの種類は膨大で、サラミもそのひとつです。僕が子どもの頃から大好きだったのが、近所の肉屋さんのサラミ。よく祖母のおつかいにも行っていました。その店は今もあって、帰省のたびに立ち寄ります」
18歳くらいの頃、友だちと2人で3週間ほどかけてハンガリーまで初めてヒッチハイクを決行。その際、リュックサックに缶詰などと一緒に詰めたのも、その店のサラミだったという。
「その後も旅に出かける時は、いつもサラミを持って行きました」
日本に来てから、なかなか「これ」というサラミを見つけられなかった中、『わたせい』の和牛熟成白カビサラミを日本人の妻が見つけてきた。
「これは子どもの頃から好きなサラミの味に近いです。噛めば噛むほどおいしい。ドイツパンの上にトマトやピクルスと一緒に乗せて食べることが多いですね。もちろん、ビールと一緒にいただきます」
このサラミを食べていると懐かしい気持ちになるというメッツラーさん。
「子どもの頃、金曜日のランチは祖母の家で食べる豆やじゃがいものスープと決まっていて。それと一緒にスライスしたサラミをつまんだのがおいしかったな」
肉屋さんの壁のタイルや天井がきれいだったこと。夏休み、友だちとのバーベキューパーティーにもサラミを手みやげに持って行ったこと。旨みの詰まったサラミを噛むうちに、ドイツで過ごした日々の記憶が次々とあふれてくるようだ。