『思わず考えちゃう』著者、ヨシタケシンスケさんインタビュー。 「どうでもいいことを面白がりたい」
撮影・黒川ひろみ
絵本作家、イラストレーターとして活躍するヨシタケシンスケさん。「20年以上続けています」というのが、目に留まった情景や日々考えていることを、小さな手帳にスケッチすること。本書は、100点以上のイラストに解説をつけた語り下ろしのエッセイだ。
「どれも、描いておかないと忘れてしまうくらいどうでもいいことばかり。電車に乗っているとき、買い物をしているときなど、目の前で起きた現象や頭に浮かんだことがあまりにどうでもいいと、どうしても残しておきたくなります」
子育てをテーマにした章では、〈ねえ、うんちついてる?〉というコメントとともに、パンツを脱いで無防備にお尻を見せる息子を描くなど、なんとも微笑ましい。
「これだけさらけ出せるなんて子どもってすごいな、と描かずにはいられませんでしたね。僕自身、本当はとても悲観的なので、人生を楽しむには、どうでもいいことから見えてくる人間らしさを面白がることが必要で。自分のためだけにやっていたことだから、伝えたいテーマがある絵本と違って、人に見せる気は全くなかったです。だからひょんなことから世に出ることになったスケッチに共感してくれる人がいるのかは、未知な部分でもあり、楽しみでもあります」
作品づくりで大切にしたいのは、 昔の自分をほっとさせられるか。
より深くまで物事を突き詰めたという最終章では、壁から顔を覗かせて幼い頃の自分をこっそり見つめる男性を描き、〈いくつになっても、あの頃の自分の味方で、理解者でいてあげたい〉と添えた。
「作品を作る上で一番大切にしたいことは、昔の自分をほっとさせられるかどうか、です。小さいころ気に病んでいたことも、こういう言い方をしたら安心するんじゃないか、かつての疑問が解消されたことになるんじゃないかと、自分ととことん向き合いながら作っていく。今の世の中にこういう人がいるからこんな内容を欲している、というマーケティング的な物づくりはできないんですよね」
作品づくりの中でもう一つ大切にしていることは、“見ながら描かない”というスケッチの手法だ。
「デッサンが苦手で、通っていた美術系の学校では、いつも絵を完成させられなかった。悩んだ結果、目の前に正解があるのがいけないんだと、思い切って、本物を見ながら描くのをやめてみたんです」
すると、不思議と絵は上達した。
「例えば、西洋と日本のお城は何を変えたら特徴が出るのかなと、“そのものらしさ”の由来を考え始めたら、以前よりもうまくなって。それで、僕が描きたいのは本物そっくりじゃなくて“それっぽいもの”だったんだと気付きました」
そして、今や大人から子どもまでを魅了する人気絵本作家に。
「自分が面白い、心地いいと感じられるように、地道に何かを続けていくことで、自然と仕事に繋がることもあるんだなと思います」
本書が、“あわよくば”生きるヒントになってくれたら、と語る。
『クロワッサン』998号より
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