「2015年の秋、『いわき回廊美術館』取材のために、創立者の志賀さんに会いました。その時、彼の人間としての面白さに惹かれ、以降は取材目的ではなく、彼に話を聞くため何度も通うことに。志賀さんと蔡さん、彼らに関わった周りの人たちの話を聞くうち、これはまとめて書き残そうと思うようになりました」
中国といわき、二人の生い立ちと育ちが丁寧に紡がれ、2本の大木は国境を挟んでそれぞれ伸びて、やがて絡み合うようになる。志賀さんと蔡さんが共通して持っていたのは〈人生を選んで切り開く力〉。
「ときに他者からは非常識に見えるものであっても、それを持っている人は魅力があります。ほかの人が決めてくれたことをするのは簡単。でも自分が決めた道を突き進むのはしんどいですよね。けれども楽しい。そういうしんどさと楽しさを同時に追求している人を見ると、ああ素晴らしいな、って」
いっぽうで嘆息すべきは、のちに互いの人生にダイナミックに関わる二人の出会いが、ほんの一瞬のセレンディピティ(幸福な偶然)であることだ。本当にここから?と何度も読み返してしまう。
「それは、一目惚れみたいなものじゃないのかな、と思うんです。すれ違った瞬間にピッとくるみたいな。お互いに興味を持たなかったならすれ違うだけの二人が偶然響き合う、そういうことがあるのでしょう」
志賀さんは大震災の翌々年に、入場無料の野外美術館「いわき回廊美術館」をオープンした。蔡さんの作品も置かれ、さらに現在、美術館周辺の山に9万9000本の桜を植樹するという「いわき万本桜プロジェクト」も進行中だ。
今も彼らの物語は続いている。そのことに勇気をもらえる一冊だ。