くらし

野添ひとみと中原ひとみ、Wひとみ、奇跡の共演作! │ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『姉妹』。1955年公開。中央映画製作の作品。DVDあり(販売元・紀伊國屋書店)

共にきらきら輝く大きな瞳と、同じ「ひとみ」という名を持つ二人の女優が、姉妹を演じる。もう運命としか言い様のないめぐり合わせで生まれた、隠れた名作『姉妹』。

山奥の発電所の社宅で暮らす家族と離れ、街の学校に通うため、伯母の家に下宿している姉、圭子(野添ひとみ)と妹の俊子(中原ひとみ)。家は貧しく弟が3人もいるため、「女の子は高校まで」と決められています。お金はなくても愛情たっぷりの家族、同級生との交流、発電所で働く人々の日常、それを支える女性たちの苦労、病気を患った隣人、そして淡い恋――。圭子がお嫁に行くまでのかけがえのない日々が溌剌と描かれます。

貧しい人々の暮らしぶりを真摯に見つめながら、意外にもユーモアが炸裂したかなり愉快な作品。この軽やかなテイストを決定的にしているのが、妹トシちゃんの素晴らしいキャラクターです。生真面目でしっかり者の姉に対してトシちゃんは、天真爛漫という言葉ではとても表せないほど、破壊的な魅力の持ち主。中原ひとみは万に一人の美少女でありながら、旧来の女の子らしさから完全に自由で、おっちょこちょいで正義感に溢れ、口が達者でどこまでもまっすぐなトシちゃんを、最高の演技で見せてくれます。

監督は社会派の家城巳代治。公開年は1955年(昭和30年)ですが、畔柳二美による自伝的な原作では、大正末期から昭和はじめにかけての北海道が舞台。映画では信州松本に場所を移し、風情ある街の様子がたっぷり切り取られています。姉妹は散歩感覚で発電所をうろうろしますが、こちらのロケ場所はおそらく山梨県の早川第一発電所。ここまで地方がきめ細やかに映画に映されていることは稀。大手ではない独立プロ系の作品だからこその気概を感じます。

中原ひとみが女の子とキスする場面の可愛らしさと見事なカット割りは、当時の映画少年に衝撃とトラウマを与えた必見の名シーン。GIF動画にしたいほどキュートです!

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。

『クロワッサン』996号より

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