多くの人が「東京には世界中の味が揃っている」と言うけれど、僕はそうは思っていないんです。確かに、様々な国のものがレベル高く存在していて、クオリティとしては相当なもの。でも、実際にその国の視点で見ると違うんですよね。フランスの人が食べてもフランスの味とは思わないはず。ほかの国のものを、自分たちのベースに合わせてちょっとずつ変えて作っている。たとえばラーメンや焼き肉という料理は、もともと世の中に存在しなかったですよね。中国にも韓国にも、そんな料理はなかった。そういうふうにいろんな食を自分たちが食べやすく進化させるのが上手な街なのかなと。
中でも洋食は歴史がある。東京の洋食的発想ってほかの国にはないと思います。100年以上前から異文化の食が入って、その土地の好みや文化と結びついて根付いていってるという……すごく特殊なジャンルですよね。東京出身の僕にとって洋食は、子どもの頃から親しんだ懐かしい食べ物。今どきの新しい感じのお店にはなかなか好みのものがなかったりします。
僕はマカロニグラタンが好きなのですが、外で食べるといろんな具が入りすぎてて嫌なんです。だから自分で作るときは何も入れずマカロニとベシャメルソースだけ。素グラタンは、フランスでは付け合わせで出てくるものですが、最近はパリでも見かけなくなりましたね。リヨンでは今もあるかな。ここで挙げた2軒のグラタンは、いずれもシンプルでスタンダード。その普通っぽさがいいんですよ。『煉瓦亭』のはマカロニが長いのが衝撃的で。こんな長いの使ってたんだ、ここんち。って(笑)。
あと、昔の洋食屋は葡萄酒的にとりあえずワインを置いていた店も多かったけれど、『フリッツ』は、ちゃんとしたビオワインを出すとか、そういうところが今どきの東京っぽくて新しい。でも料理は基本を守って昔の洋食らしさがきちんと残っている。フランスも中央志向になって、伝統的な味が消えつつあるけれど、東京はまだ昔ながらのものが残っているのがいいですね。