くらし

アメリカの歴史を変えた女性弁護士の生き様に拍手。映画『ビリーブ 未来への大逆転』

  • (文・香山リカ)
「男女平等」裁判に挑むルースと、同じ弁護士として彼女を支える夫のマーティン。(C) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

「女性が活躍する国」と聞くと、どこを思い浮かべるだろうか。北欧や女性首相が産休を取ったニュージーランドなどをあげる人もいると思うが、「やっぱりアメリカ」の声が多そうだ。政治家、学者、CEOが女性でも、そこがアメリカなら誰も不思議には思わない。

ところが、この映画を見て認識が変わった。1970年代(私の子ども時代である)のアメリカでは、まだ女性が職業につくことも、自分名義のクレジットカードを持つことさえむずかしかったというのだ。その前、さらに女性差別がひどかった時代に、法科大学院を首席で卒業したというのに、本作の主人公のルースは法律事務所に職を見つけられない。理由は「女性だから」。そうか、アメリカもつい50年前はこんなに男女の格差があったんだ、と愕然とする。

1956年、彼女はハーバード法科大学院に入学。女性の新入生はわずか9人!

しかし、そこであきらめるルースではない。弁護士である夫に「親の介護費用控除が認められなかった男性」の案件を見せられ、男性の代理人弁護士として法廷に立ちたいと考える。ここで介護費用の“男性差別”は違憲だと立証できれば、アメリカに山のように存在する女性差別的な法律を変えていく突破口が開けるからだ。

世紀の裁判を前にルースは憧れの女性弁護士ドロシー(右)に助言を求める。

もちろん、経験が乏しいルースの前にはさまざまな困難が立ちはだかる。ただそのたびに夫と娘、友人らが手を差し伸べてくれる。ラッキーといえばラッキーだが、見習うべきはこの間、ルースは一度として「私なんてダメなんだ」と自分で自分を否定しなかったことだ。日本ではいま「優秀なのに自己肯定できない女性たち」が仕事やプライベートで悩んでいるが、ルースは「私ならできる」といつも自分を信じている。

法廷で彼女が試みたスピーチは、果たして裁判の勝利につながるのか?

自分のいちばんの味方は自分。自分だけは自分を裏切らない。そうすると、まわりも自然に自分の応援団になってくれる。こんなシンプルな生き方をルースは私たちに教えてくれる。しかも、だからといって彼女は自己中心的ではなく、常に家族や友人への感謝も忘れない。「私ってこれでいいの?」とモヤモヤしてる日本の女性たちにぜひ見てもらいたい、胸のすく快作だ。

『ビリーブ 未来への大逆転』
監督:ミミ・レダー 脚本/制作総指揮:ダニエル・スティエプルマン 出演:フェリシティ・ジョーンズ、アーミー・ハマー、ジャスティン・セロー、キャシー・ベイツほか 東京・TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開中。
https://gaga.ne.jp/believe/

香山リカ(かやま・りか)●精神科医、立教大学教授。豊富な臨床経験から、現代社会を分析。近著に『皇室女子“鏡”としてのロイヤル・ファミリー』。

『クロワッサン』994号より

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