くらし

“お気に入り”の座を巡る 生死を賭けた争いに注目。映画『女王陛下のお気に入り』(文・永 千絵)

  • 文・永 千絵
気まぐれで病弱なアン女王を幼馴染のレディ・サラは公私にわたり巧みに操る。

“誰々のお気に入り”という言葉には侮蔑的な響きがある。“誰々”は立場が上の人、“お気に入り”となるのは当然それより立場の低い人間だからだ。利害関係が一致、いったんは“お気に入り”になったとしても、今度は“お気に入り”でいつづけるため汲々とする、それも哀しい。

『女王陛下のお気に入り』の舞台は18世紀の英国宮廷。国は戦争、増税、多くの問題を抱え、病身のアン女王に代わって、女王の幼馴染でもある公爵夫人サラに政治判断が任されている。そんなサラの元を、仕事を求めて訪ねてきたのは没落貴族の娘アビゲイル。召使として雇われたアビゲイルは薬草の知識を活かしてアン女王を介抱、覚えめでたく女王の傍におかれることになる。政治に忙しいサラの不在を利用し、アビゲイルは生家復興のためにも女王の“お気に入り”の座を我がものに、とあれこれ画策する……。

貴族への返り咲きを虎視眈々ともくろむアビゲイルをエマ・ストーンが演じる。

18世紀の英国宮廷が舞台なのに、これはなんとも身近な物語。スケールの大きさが違うだけで、こういう話は今でもそこらへんにたくさんありそう。ただ、王室の歴史はなかなかに血なまぐさいもの。社会的な死もふくめて、失脚することがそのまま死に直結する可能性も、と考えれば、“お気に入り”の立場死守!は実際、死活問題なわけで。“お気に入り”になれば、我が世の春を楽しめる。“お気に入り”からハズれれば、昨日までの豊かな生活はどこへやら。となれば、相手を貶める奸計をめぐらす女たちの丁々発止が、国家的危機さえ霞んで見えてしまいそうな凄まじさで繰り広げられるのも思わず納得(本当は納得してはいけない……!)。

国家の舵取り役として、議会で新たな公約を発表しようとするアン女王。

怜悧冷徹なサラを演じるレイチェル・ワイズの凛とした美しさは、ついでにとことん底意地が悪そうに見えて恐ろしい。手に入れた好機を手放すわけにいかないアビゲイル役のエマ・ストーンも、あの可憐な笑顔の裏に計算高さをひそませて、ぞっとさせてくれる。

王室歳費管理官で女王の政治顧問を務めるレディ・サラは国政を支配する。

そしてなにより、この一筋縄ではいかない女たちを気の向くままにふりまわすアン女王を演じるオリヴィア・コールマンの存在感が圧倒的! 浮世離れか天真爛漫か、自分の寵愛をめぐる2人の女の心理合戦を実は面白がっているかのようにも見える女王を演じたコールマンが今年のアカデミー賞の台風の目になることはまず間違いない。3人とも主演、助演賞候補になって、ここでも火花が散るか……! 各国の映画祭で数々の賞を受賞、その映像、ファッションなど見どころも満載である。

永 千絵
えい・ちえ●1959年、東京生まれ。映画エッセイスト。現在、VISA情報誌の
映画欄、朝日新聞等に連載を持つ。

『女王陛下のお気に入り』
監督:ヨルゴス・ランティモス 出演:エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、オリヴィア・コールマンほか 2月15日より、東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。

(C)2018 Twentieth Century Fox

『クロワッサン』991号より

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