『新米母は各駅停車でだんだん 本物の母になっていく 母業23年つれづれ日記』著者、大平一枝さんインタビュー。「お母さんの正解なんて、ないですよね」 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
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『新米母は各駅停車でだんだん 本物の母になっていく 母業23年つれづれ日記』著者、大平一枝さんインタビュー。「お母さんの正解なんて、ないですよね」

連載開始時は7歳と3歳だった兄妹が、本書刊行時の現在は23歳と19歳。住まい全般への造詣の深さも読みどころ。大和書房 1,500円

大平一枝さんの新刊は、「アサヒコム」(当時)と「北欧、暮らしの道具店」の2つのネット媒体に、17年にわたって連載されたエッセイを中心にまとめたものだ。

東京・下北沢に住む4人家族の日常を描いた掌編たち。そこには世界の終わりの危機も訪れず、やがて明かされる驚愕の秘密もない。しかし端正な文体が、本編にも登場する手作りの梅ジュースのように優しい甘さと少しの酸味で、読み手の心にしみじみと染みわたる。

「子育てって、砂が指の間からさらさらこぼれ落ちるように過ぎていきますよね」と大平さん。

おおだいら・かずえ●長野県生まれ。作家、エッセイスト。編集プロダクション勤務を経て、女性誌・書籍を中心に活躍中。著書に『届かなかった手紙』『男と女の台所』『あの人の宝物』『紙さまの話』など。朝日新聞デジタルで「東京の台所」連載中。

撮影・黒川ひろみ

「私はこの連載を長女3歳、長男7歳の頃に始めたんですが、今こうして紙におこして本にまとめてみると、あの時間が宝物であったことに改めて気がつきます。このかけがえのなさを頑張っているお母さんたちに伝えたい。それで背中を押すことができたらいいなと」

ページを繰るごとに、このエピソードは我が家にもあった、これもあったという思いが積み重なる。

布団に枕を並べ、子どもに物語の「読み語り」をして聞かせた夜、〈『ぐりとぐら』のカステラの絵に手を伸ばしてむしゃむしゃ食べるまねをする子どもたち〉。その愛しい記憶を、共有できる人は多いはず。

また、中学に入ったけれど何日もの間、友だちができず、1人でとぼとぼと帰路につく長女のエピソード。思い浮かべただけで胸がキュッとするようなその姿は自分の子のようにも、また自分自身にもそんなことがあったように思わずにはいられない。その子どもを大平さん家族は、〈体で、言葉で、心で抱きしめる〉。この挿話は入学6日目に彼女に数多くの友だちができたことであっけなく解決をみるが、〈こんな結果も、ある程度は見えていた〉。そうそう、過ぎてしまえばそういうものだ。

その忙しさに写真に撮ることも 忘れがちな日常という宝物。

「お母さんの毎日って少し先のことしか見えなくて、日々の記憶がどんどん上書き更新されていく。特に働いていると、『今日のお迎えどうしよう』とか、『来週仕事で留守にしないといけないけど夫に頼めるかしら』とかで手いっぱいですよね。忙しすぎて写真に撮ることすらできない、この瞬間の愛おしさを、こうして本にすることで届けたいんです。子育てがどんどん密室の中のものになりがちな気がする今だから、頑張りすぎなくてもいいんだよ、と言いたいの」

子どもが小学生のころ、大平さんがせっせと作った梅ジュース。〈「今年は、去年よりもたくさん作って」と、欲張りな長男が念を押す〉。しかし、下の子が高3になって作るのをやめたそう。

「長男が『今年は梅ジュース飲みたいな』って言うんですよ。気を使って言っているのがわかる。そこまで成長した! 子どもは期限付きの預かりものだとはっきりわかる。でも、子どもを思う心の重さはずっと変わらない」

大平さんの、母という電車の終着点はまだまだ先のようだ。

『クロワッサン』986号より

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